第40話
昨夜の殿下に言われた通りに私は、いじらしく引き留めようとする義弟を振り切って皇宮へと来たのだが…
彼は私の姿を見るなり、開口一番にこう言った。
「なんだその皇族に謁見に来た貴族の令嬢みたいな格好は。」
「みたいもなにもその通りなのですが…」
そう言いながら私は戸惑いつつ、自身の格好を見下ろした。
今、私が着込んでいるのは若草色のドレスだ。袖が長く、襟ぐりも首まできっちりとレースが飾られているもので、幾重にもドレープになったスカートは足元が完全に覆われるほど長い。
厳格な皇宮にならって、派手過ぎず、地味すぎず上品なデザインのドレスを選んできたつもりだったのだが……何処かおかしい所でもあるのだろうか。少し、不安になる。
「俺の為にめかしこんできた所悪いが、チェンジで。」
それはどう意味なのか、と聞く前に殿下はパチンと指を鳴らした。すると、背後の扉から3人の可愛らしい侍女が「失礼致します。」と静かに入ってきた。
私は殿下の意図が分からず、侍女と殿下を交互に見て首を傾げる。そんな私の様子を見た殿下はニヤリと笑って、口を開いた。
「さぁーて、お前ら。久々の獲物だぞ。遠慮はいらん、思いっきりヤレ。」
「かしこましました!」
殿下の物騒な命令に綺麗に声を揃え返事をした3人の侍女はにっこりと笑い、私の方へゆっくりと向かってきた。
…何故かボキボキと指の関節を鳴らしながら。
彼女達の可愛らしい表情に似つかわしくない物騒な仕草に、本能的に危機感を感じた私は思わず後退りをする。ジリジリと後ろに下がっていると壁にぶつかった。
「っ!」
気付けば私は部屋の角へと追い込まれてしまっていた。狼狽している間にも侍女達は非情にも確実に距離を詰め、為す術もなく私の両腕は彼女達に捕らえられてしまった。
そして、そのまま引き摺られるようにして部屋の外へと連れて行かれる。
「待って下さいっ。私は殿下に話が…」
「シューンベルグ公爵令嬢、怖がらないで下さい。ささ、こちらに…」
「で、殿下…!」
最後の希望として殿下に助けを求めるも、彼はヘラヘラ笑い手を振るだけだった。
「行ってらっしゃい、エリザ。せいぜい可愛がってもらえよ?」
「薄情者ぉっ!!」
私の悲痛な叫びは、廊下に虚しく響くだけだった。
※※※※※※
こうして私は可愛らしい3人の侍女に別室へと連れてこられた。
戸惑う私を他所に彼女達はテキパキと動き始めると突然、背中でしゅるしゅるという布ずれの音がした。
「っ!?」
肩甲骨から腰まで縛っていたコルセットの紐が緩められたのだ。しかし、コルセットが緩んだということは、上に来ているドレスも緩められているということだ。いつの間ににと驚いている間にも彼女達の手は止まらない。
1人の侍女がドレスの肩紐に指をかけたことにより、私の腕からドレスがするりと滑り落ちた。
そして気付けば私の肌に残るものは、レースと絹で作られたシュミーズと、レースたっぷりのドロワーズだけとなった。
侍女達に下着姿を晒すことは昔から慣れているはずだが、突然の事に困惑した私は腕で自身の体を隠し、その場にしゃがみ込んだ。
―な、何なの?何が起こったの…!?どうして私はドレスを脱がされたの!?
そんな私の心情を知ってか知らずか侍女達は実に楽しそうに、私の身体に触りはじめた。
「あぁ、なんてお美しいお肌なのでしょう!まるで宝石のパールのようですわっ!」
「まぁまぁ!お胸もこんなにたわわに実ってまして…。こんないやらしい…ゴホン、素敵なものを隠してたんですね!!」
「あらあら素敵な首飾り!恋人からの贈り物ですか?」
「いや、それは弟がくれたもので…」
「さ、始めますよ!久々に腕がなりますわっ!!」
「ひっ」
引き攣ったような悲鳴を上げた私をキャッキャウフフと可愛らしく笑いながら見下ろす彼女たちは、たまらなく恐ろしかった。
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