第2話
今から300年前。
侯爵の爵位を持つコーエン家の長女として生まれてきた私は、物心つく前から皇太子妃になる為だけに育てられてきた。
だが、あくまで数いる候補の中の1人。有力候補には帝国を代表するような公爵家の令嬢や、魔力の高い一族の娘達などが挙がっていた。そんな彼女達と身分は高いが人見知りで物覚えも悪く、大した特技もない私とでは初めから比べ物にならない…。
誰もがこの私が婚約者に選ばれることは無いだろうと思っていた。…母以外は。
母は元々皇帝陛下の婚約者であったが、陛下が今の皇后を選んだことにより婚約は破棄されたそうだ。そのことがどれだけ母のプライドを傷つけたのだろう。まるで、自分の代わりにするかのように母は私を皇太子妃にする事に執着していった。
ある日、皇宮で皇后主催のピアノのお披露目会が催された。
初めてのお披露目会に私は緊張と母からのプレッシャーに煽られミスを連発し、それはそれは酷い演奏を披露することになってしまった。
遠くで同じ年頃の令嬢達が私を見てクスクスと嗤う。恥ずかしさで全身を真っ赤に染め小さくなる私に母は、私以上に顔を赤くし「私まで恥をかいてしまったじゃないのっ!外で反省していなさいっ!!」と叱りつけ、皇宮の外に追い出した。
皇宮の庭で隠れるようにして泣いていると、誰かが「大丈夫?」と私に声を掛けてきた。顔を上げると黄金の髪にサファイアの瞳を持った少年が心配そうに私を見下ろしていた。
―なんて、きれいな人なんだろう。
今まで人に優しく声を掛けられたことが無かった私は、この優しい声と美しい容姿を持った少年に一目で夢中になった。
その後、その時の少年がこのノルデン帝国の皇太子殿下、アルベルト=ブランシュネージュ=ノルデン様であることを知り、私は殿下に相応しい淑女になることを決意した。
しかし、その道のりは自分が思っていた以上に簡単ではなかった。物覚えも悪く不器用な私は、他の令嬢達が簡単に出来ることですら、出来ない。自身の出来損ないっぷりにショックを受け、何度も挫けそうになるがアルベルト様の事を諦める事は出来なかった。そんな私は、人の何倍もの努力を、文字通り血が滲むような努力を重ねていくしか無かった。
―こんなにも頑張らないと並のことでさえ出来ないだなんて…。こんな惨めな姿、絶対に見せられない。特にあの人だけには…。知られたらきっと幻滅されてしまう。
常に誰もが理想とする淑女の仮面をつけ続けた結果、いつの間にか淑女の中の淑女と呼ばれるようになっていた。
そして私が18歳、彼が23歳になる年に皇太子殿下の婚約者になる事が決まった。
嬉しかった。自分がしてきた努力は無駄ではなかったのだと。
しかし、彼が選んだのは私では無かった。
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