第3-07話 協力者

「さァ、お前は一体どんな目的でここにきた?」


 男は俺の前に槍を置いたまま、笑いながら問う。俺は再び『暗殺術』を発動。男の目の前から撤退を謀る。だが、男の視線はしっかり俺を捉えると、左脚を削いだ。


「動くんじゃァねェ。お前の動きは

「……どうして」

「どうして? どうしてだと? 不思議なことを言うじゃァないか。良いか、良く聞け。質問してるのは、。お前の質問に答えるのはお前が答えた後に決まってるだろう。さあ、言え。どうして城に忍び込んだ。何が目的だ。人か、物か、金か?」

「……力、試しだ」


 目の前の男はまずい。そう俺の全身が叫んでいる。とにかく関わるな。だから、ここは嘘をついて、誤魔化して逃げてしまおう。


「俺は、消えれるスキルを持っている」

「今のお前が使っているやつだろ?」


 ……やっぱりコイツはスキルを見破る何かを持っている。


 それはアイのような【無効化】スキルじゃない。どちらかというとユウの【鑑定】に近しいものだ。少なくとも、俺はそう考えている。


「ああ。それで、王城の警備に俺のスキルがどこまで通じるかを見たかった」

「へえ。


 ギン、と音を立てて俺の腹に槍が食い込んだ。


「……ッ!!」

のことを言え」


 嘘がバレた? 馬鹿な、バレるはずがない。


 ……仕方がない。殺してしまおう。バレてしまったのだ。マコトを殺す上で邪魔になる相手だ。ここで殺してしまおう。


「……クソッ。悪かったよ。俺の嘘だよッ!!」


 俺は地面に這いつくばったままでそう言った。脚は未だに治る気配を見せない。この男が何かをしたのだろうか? さっぱり分からないまま、俺はを差し出した。


「すまん。起こしてくれ。正直に喋るから」


 さあ、触れ。


 俺の右手は“絶対”の内の一つ。どんな防御があろうとも、どれだけ策を練ろうとも、俺の右手触れれば相手は死ぬ。そこに、万に一つの例外は無い。


「お前さァ」


 ため息をついてフードの男が一歩踏み込む。


「演技、下手すぎ」


 そして、槍が振るわれ俺の右手が宙を舞った。


「視線の動かし方とか、身体の動かし方とか。そういうので、なんだよ。俺を騙そうとするなら、もっと上手にやれ」


 べちゃ、と音を立てて俺の右腕が遥か後ろに落ちる音がした。


「……本当のことを、話そう」


 今の俺には、この状況をどうすることもできない。


 それを理解した。だから、口を開いた。


「俺の目的は……偵察だ」

「へェ?」


 俺が本当のことを言っていると理解したのか、彼の声色が変わった。ああ、クソ。本当に嘘か真かを判断する技術も持っているのか。


「何を偵察しにきた」

「……“稀人まれびと”」

「何?」

「ここに居るだろう。マコトが。俺はそれを殺しに来た」

「……フウン」


 男の声色は深みを帯びたまま、しかしこちらに何も悟らせるようなことはなくただ妖しげに揺れ動いただけ。


「へェ、そうかい。マコトを、ねェ……。アンタ、マコトに力でも奪われたのか?」

「そうだ」

「ふうん、そうか。そうか。なるほどなるほど」


 男はしばらく悩みぬいた末、ゆっくりと口を開いた。


「殺したい……と、思っているのはマコトだけか?」


 俺の返答に、男の口角が明らかに持ちあがった。


「お前、“稀人まれびと殺し”だな」


 そして、そう言った。


「……そうだ」

「よし、よし。ようやく見つけたぞ。お前を。お前のことを。結構探したんたぜ。これでもな」


 男はそう言って、俺の足から槍を引き抜いた。その瞬間、全ての傷が修復されていく。


「こっちだ。ついてこい。会わせたい奴がいる」

「会わせたいやつ?」


 急にそんなことを言われても理解が追い付かない。


《ついていきましょう》

(……天使ちゃん?)

《ここは、従っておくのが最善よ》

(…………)


 それは、そうなのかも知れない。天使ちゃんの言う通りなのかもしれない。だから俺は、目の前の男についていくことにした。


「お前、名前は」


 目の前の男が聞いてくる。だが、俺は答えない。当たり前だ。急に“稀人まれびと殺し”と聞いて態度を180度転換させるような奴のことなど誰が信用しているのだろうか。


「おっと、名乗るんだったら俺からだよな。俺はロイ。2つ目の名前を持っていない。ただの、ロイだ」

「ロイ、ね」

「そうだとも」


 二人して路地裏を進むこと、数分。建物の裏口から中に入ると、さらにそこから地下へと移動。地下には奥へと進む長い通路があってそこをひたすら進むこと5分。


「おい。俺はいつまで歩かされるんだ?」

「もうすぐ着く。そう騒ぐな」


 ふと、視線の先に急に梯子が現れた。どうやら行き止まりについたらしい。俺はフードの男について、地下通路から上へとあがる。だが、上がったとしても中は相変わらず暗いままだし、石ともレンガともつかないようなもので覆われたままだ。


「静かに。こっちだ」


 声を潜めたままロイがそう言って、狭苦しい石の間を抜けていく。


 俺マジでどこに連れていかれてるんだ……?


「……ここだ」


 ロイは狭い通路の中で立ち止まると、天井を二回ノックした。すると、天井の内の1ブロックが外されそこから手が差し出される。先にロイが外に出て、遅れて俺が外に出た。


 そこはどこかの一室だった。赤い絨毯。赤いベッド。赤いカーテン。ほとんどが赤に染め上げられた中で、純白の衣装を包む少女が一人、ベッドの上に腰かけていた。


「さあ、連れてきましたよ。

「うむ。ご苦労であった。ロイ」


 ……お姫様?


「さて、新たな協力者はお主か」


 ちらり、と少女の視線が俺に向く。


 ……協力者?


「うむ。名乗らねば怪しいままだな。良く聞け。我が名はローズ。ローズ・ダステマンテ」


 ……誰だ? どこかで聞いたことあるような名前だ……。


「第一王女ローズ・ダステマンテであるっ!」


 ……え? ガチのお姫様なの???

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