第3-06話 発見
夜。人が寝静まった後は、世界でも有数の人口を誇る王都と言えども静けさに包まれる。そこに一人、『暗殺術』を発動することで誰にも認識されなくなった俺が駆けていく。時折酔っ払いや、夜警とすれ違うが誰も彼のことを気にも留めない。
そして俺は王城までやって来ると、そこでしばらく待つ。だが、すぐに求めていた物が来た。ガタガタと音を立てて馬車が列をなしてやって来たのだ。その荷台には食料が詰め込まれている。
暗殺を警戒するあまり、国王が選び抜いた産地からの直接運び込まれるこれらの食材が夜に持ち込まれるのも当然、国王が暗殺を恐れているからである。
数年前に起きた『大戦』。
王は『魔神』に勝つためにありとあらゆる手段を講じた。赤子への薬物投与による強制強化。亜人種をかけ合わせることによる人種の遺伝子改良。子供たちに呪術を付与し、蟲毒を行うことによる魔力の強化などは、まだ
終戦と同時に闇に葬り去られた悪魔の所業は、いまもなお国民の一定数を苦しめ、王を憎むための原動力として彼らを生かしている。また、当然敵は国の中だけに留まらない。戦後、強引とも言える手法で多くの国々と政治を用いて戦い多くの領土を手に入れた彼は、あまりに作った敵が多すぎた。
そのため、いっそ病的とも思えるほどの警戒を敷いているのだ。
だからこそ、食材搬入もこんな時間に行うしその食材を搬入するのは長年王家に努めた忠義の厚い者たちである。
そう。彼は敵も多いが、味方も多い。彼がどれだけ外道だろうが、人でなしだろうが、それでも
まあ、だからこそ俺は王城に入るまでに時間がかかったんだけどね……。
《中に入ったのは良いけど、外にはどうやってでるの?》
(普通に飛んで出る)
《……?》
(対空結界って一方向なんだよ。外から中へ入るときには反応するけど、その逆はない。だって、何かあった時に中にいる人たちが巻き込まれるかもしれないだろ?)
それに加えて、内側からの移動にも攻撃判定を設けているとそれを逆に利用されたりすることがあるのである。
対空結界は一方向。故に、内側に入られないように堅牢な警備で城を守っているのだろう。だから、内側に入ってしまえばこっちのものだ。
食材を乗せた馬車が隠し門をくぐっていく中、俺もそれについて中に入った。警備兵たちも俺に気が付いた様子は見せない。そして、王城の敷地内に脚を踏み入れ食材の搬入をしている倉庫の隣を通って、使用人専用の扉から王城の中に入りこんだ。
《案外あっさり行ったわね》
(国王の用心が慎重すぎて逆に助かったな)
だが、国王は自分の側近以外はあまり信用していないようで、そういった類のものは見受けられなかった。
《しかし、こうなると気になるわね》
(何が?)
《マコトがどうやって国王に取り入ったのか、よ》
(……確かに)
《目的には関係ないけどね》
天使ちゃんが笑う。俺もそれに引きつられて笑う。
そう。全くもって関係ない。
マコトがどうやって国王に取り入ったのか。どうして国王がそれを受け入れたのか。そんなことを知ったところで俺の殺意は飲み込めない。ヒナの恨みは消えることは無い。
王城の中を走り回ること十数分。未だにマコトの居場所は見つけられなかった。
(……クソ。どこにいるんだ…………)
《探してこようか?》
(部屋の中に入れるの?)
《壁くらい透過できるわよ》
(……それは、最終手段にしよう)
透過したことで天使ちゃんと離れ離れになることとか、天使ちゃんが万が一にも奪われるとか、そういうことを心配しているのではない。
単純に全ての部屋を見るとなると、時間がどれくらいかかるか分からないからだ。
(いったん国王のところまで行ってみるか……?)
《寝てるでしょ》
(まあ、流石にか……)
さて、こうなると困った。
念願の王城内に入る機会だったというのに、何も成果がないままに終わってしまいそうだ。
(ヒナを連れてくればよかったな)
《そうね》
トラウマになっているかもしれないが、それでも彼女は一度この王城内に招かれて、能力を奪われて、奴隷商に売り飛ばされているのだ。
彼女が側にいれば王城の中を案内してくれたかもしれない。
《帰る?》
(いや……。もうちょっと見て回ろう)
どこを見回っても居ないので、上に上に上がっていく。人々が寝静まった王城の中にいるのは巡回している兵士くらいだ。一向に手がかりがつかめないまま、ジリジリと時間が経っていく。
(……マジで分かんないじゃん)
《仕方ないから今日は撤退する?》
(そう、だな)
俺はため息をつく。こんなことなら最初っから天使ちゃんに頼んで、部屋の中を見て回ってもらえばよかった。次来た時はそうしよう。
(今日は帰ろう)
俺がそう言うと、天使ちゃんがこくりと頷いた。先ほど歩いて来た道を歩いて戻ると、こっそりと扉から外に出て飛行魔法を発動。ぶわり、と身体が浮かび上がると王城の周りを囲っている大きな壁を飛び越して王都へと戻って行く。
その途中で、バッッ!! と、俺の脚を槍が貫いた。
「……ッ!?」
飛行魔法が上手く制御できなくなって、ふらりと身体が揺れると地面に落ちる。
《ユツキ! 着地!!》
(分かってる!!)
飛行魔法を強引に発動。なんとか身体を重力の反対方向へと持ち上げようとする。上も下も分からないようなしっちゃかめっちゃかな感じになりながらも王都へと降り立った瞬間、俺の目の前に一人の男が立っていることに気が付いた。
すらりとした長身。あまりに深くフードをかぶっている物だから、顔の様子もうかがえない。フードの奥からは銀の髪がはらりと零れ落ちている。
「侵入者が出るとはなぁ。王城も舐められたもんだ」
……『暗殺術』を使っているのに、俺のことが見えている?
それは間違いない。何しろ、俺の足に刺さっている槍を投げたのは目の前にいるこの男だ。
「さて、話を聞こうじゃあないか」
ズン、と男は二本目の槍をどこからともなく取り出して地面に突き刺して、
「それ次第じゃ命が助かるかも知れないぜ。侵入者さんよォ」
こちらをおちょくる様な口調と、絶対的な殺意でもってそう言った。
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