第2-14話 貴族
休日、というのはどうしてあっという間に過ぎるのだろうか。平日の、特に学校がある日なんかは1日の時間が長くて長くてたまらないというのに。
日本にいるときはそんなことばかり考えていたが、こっちに来てからその考え方が少し変わった。学校への抵抗感を覚えなくなったからだろうか。平日でも休日でも一日の過ぎる速さが一緒なのである。
それを思うと、自分がどれだけ学校が嫌だったのか。それを知ることが出来るし、それを考えると、こっちの世界に来てよかった……なんてことを考えたりする。
「ユツキさん!」
「どした?」
朝、ローブを羽織っているとノックもなしにシェリーが俺の部屋に突撃してきた。いつもはノックなしでは絶対に部屋に入って来ないシェリーが珍しい。なんてことを考えながら、シェリーに続きを促した。
「か、帰ってきましたッ! ゆ、ユウが。“神の眼”のユウが」
「学校に?」
「はい! 学校に」
「そっか」
俺は鏡で自分の恰好を見直す。あー、ここちょっとよれてる……。
「ちょ、ど、どうしてそんな落ち着いているんですか!?」
「だって、することは変わらないんだ。今更焦ってもどうしようもないだろ?」
「することは変わらないって……」
「来週にはもう“聖女”の一団が『インダスタル』にやってくる。そんな状況でおちおち教師なんてやってると思う?」
「……へ?」
「
「そ、そうなんですかね?」
「間違いなく、特殊な魔法の生徒1人だけを見ている時間なんて無い。だってそこに緊急性がないんだ。今まで数週間、自分の適性が分からなかった生徒が、その適性を知るのに1週間伸びたところで何か大きな影響がある?」
「それは……。ない、ですけど」
「ああ。俺がそう考えるってことは、ユウも当然似たような考えをしている。ソフィア先生か、他の誰かか。あの学校の教師から適性の分からない魔法使いが1人いると報告受けたって、“聖女”との仕事の後に回せば良い。そう、考える」
「な、なるほど……。で、でも
「まだ、
「へ!?」
「ここはユウのホームグラウンドだ。アイツの能力から考えて、今回俺の得意とする方法は使えない」
すわなち、闇に潜れての暗殺である。そのためのスキル『暗殺術』は、『隠密』スキルの上位互換スキルではあるが【見る】能力と相性は悪いと言わざるを得ない。
しかもユウの持っているスキルは天使さんからもらったスキル。普通のスキルとは一線を画しているとみるべきだ。だから、俺が狙うのは混乱に乗じた殺害。ユウが周囲の状況について行けなくなった瞬間に、殺す。
「だから、今日は普通に学校に行く」
「そ、そうなんですね」
「ああ。どうせユウも帰ってきたばかりで下に降りるんだろう?」
「そうかも知れません。そもそもあの人は学校でも自分の生徒を持ってない特殊な先生なので」
「へー。そうなんだ」
鏡を見る。どこに出ても……まあ、大丈夫と言えるような恰好にはなっているだろう。
「じゃあ、行こうか」
「はいっ!」
俺たちは箒を掴んで外に出た。
「なんか……街がそわそわしているな」
外に出てまず出て来た感想がそれ。どこが、という説明は難しいのだが街のテンションがわずかに上がっているのだ。
「……多分、ユウが帰ってきたからです」
「アイツは、そんな有名人か」
「はい。
「4大貴族?」
そんな話は今まで聞いたことが無いのだが。
「はい。その4つの貴族は大きな力を持っていたんです。
「…………」
「例えば、時間に関する魔法。時を遅めたり、速めたり。あるいは、止めたりするような魔法の研究。4大貴族はその特殊な魔法を手に、
シェリーの声がどんどん重たくなっていく。
「貴族たちは“
「……どうなった」
「結論から言えば、1週間で全ての貴族は
「いや、それはそうだろうけど……」
そんなさらっとグロい話にされても困るところだ。
「4大貴族たちがその座にいたのは特殊な魔法を手にしていたから。けれど、ユウはその全てを
「選挙?」
なんかやけに普通の政治の話になってきたな。
「民主主義、というものらしいです。ここは私よりもユツキさんの方が詳しいと思うので、説明は割愛しますね。とにかく、ユウは4大貴族で統治していたこの街に新しい政治システムを持ち込んだだけじゃなく、その貴族たちが秘匿していた特殊な魔法を、
「……なるほど。貴族たちの力を削いだのか」
「はい。それまで4大貴族たちが積み上げ来たものをあざ笑うかのように、ユウはこの街の政治、だけじゃなく教育方法や研究の仕方まで変えたんです」
「……シェリー、君は」
「はい。私はその4大貴族の内の1つ。メルソン家の人間
「でした、って」
「ユウは貴族たちがこれ以上力を持つことを禁じるために、家族や親族間の接触を固く禁止しました。“家”の持っていた財産、それを配分され私は家族に出会うことを強く禁止されています」
「……そんなことって」
「別に、私は政治とかはどうだって良いんです。ただ、お母さんとお父さんに会いたいだけなんです」
シェリーの、今にも泣き出しそうな声が俺の頭の中で何回も繰り返された。
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