第2-12話 同朋

 ん……? 頼りになる先生計画……?


「あの、ソフィア……先生……ですよね?」

「……はいです。合ってます…………」


 見た目的にもしかして先生の生徒かな? と、思って話しかけてみたが、そんなことは無かった。普通に先生でした。


「あの、ユツキって言います。よろしくお願いします」

「ゆ、ユツキ君ですね。よろしく、です」


 書類の山から起き上がって互いに一礼。


「わぶっ」


 だが、ソフィア先生はそのまま書類で足を滑らせる。


「あぶなっ」


 慌てて拾いにいく俺。先生を抱きかかえて、俺は一安心。


「だ、大丈夫でしたか?」

「あ、あぅ…………。ありがとう、ですぅ……」


 先生はちょっと涙目になりながら、感謝を伝えてきた。……この人、本当に大丈夫かなぁ。というか、何歳なんだろ。見た目通りの年齢なの?


 だとしたら魔術国家マギアロンドヤバくない? 何歳児に先生させてるんだよ。


 流石に違うと思うわよ――。


 天使ちゃんが俺の周りを浮かびながらそう伝えてきた。いや、そうだよな。魔法で年齢を下げてるとかだよなぁ……。


「あの、つかぬ事を伺いますが……先生は何歳なんですか?」

「11歳」

「はい?」

「……11歳です!」


 じゅ、じゅっ、11ィ!? 小学校5年生と同じくらいじゃん!!


 ――――――!?


 ほら、天使ちゃんもびっくりして閉口しているし……ッ!


「あの……嫌、ですか……?」

「いや、別に嫌ってわけじゃ……。僕としては魔法さえ教えてもらえればそれで良いですし……」


 本当のところを言えば別に魔法を教えてもらわなくても良い。“神の眼”のユウ、それに近づける機会さえあればいいのだ。


 だが、こちらの正体がバレそうになるようなことは避けたかった。そういう意味で言えば、ユウがここに居ないというのは幸運だったかも知れない。しかし、俺の魔法が特殊だというのは少し想定外だった。


 だって、俺だぜ……? なんか平凡も凡みたいな魔法だと思うじゃん……。


 しかし、得意魔法が何なのかというのが分からなければテストをしていないのと同じだし、何よりユウにこちらを覗かれる恐れがある。


 それまでにはこちらの得意魔法を何としてでも見つけたいのだ。


「よ、良かったぁ」


 だが、ソフィア先生は俺の嘘には気が付かず、心の底から安堵したような表情を見せた。子供をだますのって……なんか気後れするなァ……。


 人を殺しておいて気後れもなにも無いでしょ――。


 そりゃそうだ。


「じゃ、じゃあ授業にしましょう……!」

「その前にこの部屋片づけた方が良くないですか?」

「あ、あぅ……」


 というわけで、散らばった書類の山を片付けることから始まった。


 ソフィア先生が書類は順番関係ないとかいうもんだから、適当に拾い集めていたのだがそこに書いてあったのはクッソ難しそうな数式。正直、高校の途中で転生した身としては何が書いてあるのかさっぱり分からない。


「ソフィア先生ってここに書いてあること分かるんですか?」

「あ、あの……それは、私が作った魔法、です……」

「えっ!? これを先生が!!?」

「や、やっぱりおかしいですか……?」

「いや、天才じゃないですか!!」


 11歳なのにこれだけの数式を使いこなしてるとか天才以外の形容の仕方がない。この式とか∫が3つもあるんだけどどうやって解くんだ……?


「て、天才だなんて……そんな……。ち、違いますよぅ! やること無かったから、勉強してただけで……」

「いや、それで勉強できるのって凄いですよ!」


 11歳で魔術国家マギアロンドの教師をやってるだなんて人手不足にもほどがあると思ったが、違う。ソフィア先生は飛び級でここまで上がってきた天才なんだ。


 恐らく、ここの教師は大学の教授陣と同じ……。研究費や研究室を与えられるが学生を育てる義務を負っている……というところだろう。


 大学に行ったこと無いのに――。


 良いのっ!!


 天使ちゃんからお前が言うのか……。みたいな視線で見られた。心外である。


 とにかく、ソフィア先生はここで研究することを許されたがその分、学生を育てないといけないのだろう。


 だが、それにしては他の学生がいない。


「あの、先生。他の生徒っていないんですか?」

「は、はい! ユツキ君、だけです」

「へー……。え!? 俺だけ??」

「あの……。はい……」


 凄く消え入りそうな声をあげる先生。


「な、何でですか?」

「私の専攻が……特殊な魔法というか……。3色に入らない魔法、なんです」

「3色に入らない魔法」


 というと、あれか。黒とか白とかそういうのか。


「はい。あの、黒魔法と白魔法のことです。中でも私が専攻したのはその中間色……。そのどちらにも属さない魔法だったんです。私自身、そこに適性があって……」

「え? 先生も?」

「はいです。でも黒魔法や白魔法を得意とする先生ってたくさんいるんです。それに、生徒さんのほとんども3色以外だと黒か白に偏っちゃうことが多くって……それで……」

「生徒が回されなかった、と……」

「うぅ……」


 先生がとんどん小さくなっていく。あんまり突かれたくないところらしい。


「で、でも。見た感じ良い感じの部屋ですし、生徒がいないから先生もたくさん研究できたんじゃないですか?」

「ち、違うんです! 私は研究者になりたかったんじゃなくて、先生になりたかったんです!」

「せ、先生に?」

「はいです。私がいじめられてた時に助けてもらったのが、すっごい嬉しくて」


 さらっと先生になった理由を喋るソフィア先生。ていうか先生も虐められとったんかい。


「え? 先生もいじめられてたんですか?」

「せ、先生ってことはユツキ君も……?」


 するとソフィア先生が急に俺に抱き着いて来た。


「辛かったですよね。気持ちは分かりますよ」

「あ、ありがとう……ございます……」


 びっくりしたぁ。急に抱き着かれたんだから何が起きるかと思ったわ……。


 でも、あれだろうなぁ。ソフィア先生がいじめられた理由って頭が良いから、とかなんだろうなぁ……。俺とは全然違うよなぁ……。


 なんでそう卑屈になるの――。


 天使ちゃんにたしなめられた。もう卑屈になるのは辞めよう。


「せ、先生。授業にしませんか?」

「そ、そうですね! 授業にしましょう!!」


 先生は顔を真っ赤にして俺から離れると、自分の椅子に座った。


「では、ユツキ君が何に適性があるのか。それを知るところから始めましょう」


 あー……。やっぱりそこからスタートなんだ……。


 ソフィア先生が近くにあった分厚い本を手に取って、その1ページ目を開いた。


「ここに書いてあるテストを片っ端から、試してみましょう! そうすれば、きっと、分かるはずです!!」


 ニコニコと綺麗な笑顔でこっちを見てくる先生。


「あの、先生。質問です」


 俺が手をあげると、ソフィア先生は飛び上がるほど喜んで。


「ど、どうぞ! ユツキくん!!!」

「あの、それ……何個テストあるんですか?」

「大体5000個くらいです。大丈夫、すぐに終わりますよ」


 …………すぐに、ね。


 俺はため息をついた。




 結論から言おう。


 …………すぐに終わるはずがなかった。

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