第2-11話 先生

「シルバー、ね……」


 とんでもなく微妙な顔をしている先生。3つのうちに属さない魔法ということは……特別な魔法とか……? いささかテンションが上がりかけるが、それをぐっと飲みこむ。


 そうやって調子にのって今までどれだけの失敗をしてきたのか。


 どうせ、あれだよ。3つに当てはまらないってだけで色が用意してあるってことは大したこと無いんだよ。黒とか白とか単純色の方が強いに決まってるし……。


 卑屈ね――。


 天使ちゃんに笑われてしまった。悲しい。


「シルバーって……その、どういう魔法なんですか?」

「分からない」

「分からない?」


 そんなことある?


「黒は死にまつわる色。例えば、死霊術師ネクロマンサーなんかは黒が強い灰色が出ることがあるわ。反対の白は純粋なとしての魔法。……説明が難しいわね。属性として変化しない、純粋な魔法……って言っても分かんないわよね」

「分かんないです」

「うーん……」


 先生は少しだけ考えて、机の上に置いてあった本を手に取った。


「私は白系統に適性があるわけじゃないから、ちょっとしか出来ないけど」


 そう言って、先生は本から手を放した。


 ……だが、落ちない。


 飛行魔法か、と思ったが移動していない。空間に固定されたかのようにじっとその場に本が止まっている。しばらくして、先生はその本を手に取った。


「これが、白系統の魔法。飛行魔法はこれのアレンジだから純粋な白魔法じゃないけど、こういう風に力を操作したり、加えたりする力は白系統が濃くでるわ」

「その中間ってことですか」

「それがそうともいかないの」


 俺の疑問に先生が首を横に振った。じゃあ、今の説明なんだったんだよ。


「死に纏わる力なら黒、力に纏わる力なら白。対極にするには、少しおかしいと思わない?」

「ん。確かにそうですね」


 言われてみればそうだ。


 黒が死なら、白は生。治癒魔法とかになるべきじゃあないのか。


「あくまで近ければ、その系統ってわけで間にある色がどういう魔法になるかは分からないの」

「え、分からないんですか? これって、そういうテストじゃないんですか?」

「そういうテストだけど9割以上の人間は3色の間にでるの!」

「そ、そうっすか……」


 思ったよりも俺は特殊だったっぽい。テンションあげても良い?


 と、思ってちらっと天使ちゃんを見た。見た瞬間に、脳の中に稲妻が走った。


 ……天使ちゃんが俺の魔法なんじゃないの? と。


「あの、召喚魔法ってどんな色になるんですか?」

「何を呼ぶかによって色が変わるけど、アナタよりは白か黒によるわよ」

「そ、そうっすか……」


 違ったらしい。というか、天使ちゃんって召喚物なの?


 違うわよ――。


 本人から言われてしまった。じゃあ、召喚魔法じゃないんだ。何なんだよ。


「ううん。ユウ先生にみてもらいたいけど、あの人いまいないから……」


 その名前が出てきた瞬間、俺の身体がびくっと震え……そうになって、その反応を無理やり押し付けた。


「その……ユウ、先生というのはどなたですか?」


 さらっと俺が話題に上げる。情報が欲しい。『見る』能力が、どこまで見るのか。


 その限界はどこにあるのか。どこまで見れるのか。


「ユウ先生? “稀人まれびと”なのにここで教師をやってる不思議な先生よ」


 そう言って目の前の先生は微笑む。


「それは……不思議ですね。その、ユウ先生に見てもらえれば僕の適正も分かるんですか?」

「そうね。ユウ先生は【鑑定】スキルを持ってるんだけど、普通の【鑑定】スキルじゃないの。その人が持ってる才能とか、寿命とか見えるらしいの」

「へー。それって魔法じゃなくてスキルなんですか?」

「らしいわ。頑張れば未来も見えるとか言って笑ってたわよ」

「……過去は」


 俺が言葉を吐く。


「過去は、見えるんですか?」


 ユウを殺そうと計画を立てた過去。

 ナノハを殺したという過去。

 俺も“稀人まれびと”という過去。


 俺には知られたくない過去ばかりだ。


「さぁ? でも他人の過去なんて覗かないものだと思うけど」


 それは、あまりに彼を信頼しすぎてはいないだろうか。


 アイツらは俺からスキルを奪うことを嬉々として行い、俺がこの世界にやって来てすぐに死ぬことすら念頭に入れていた。


「まあ、そうかも知れませんね」


 だが、ここでは話を合わせておく。俺は適当に笑って流すと、さらに続けた。


「今はいないってどこにいるんですか?」

「それは分からないの。一か月以内には戻ってくるって言ってたから、それまでには戻ってくると思うんだけど」

「じゃあ、それまで僕の魔法適性は分からないってことですか」


 俺は落胆した振りを見せる。適当な演技だ。


 だが、こんな適当な演技でも人は騙せる。


「んー。そうね。確かにそれは困ったわね……」


 先生はしばらく困った顔を浮かべて、


「悪いんだけど、それまでは臨時の教師の下で勉強してもらえる」

「あ、はい。分かりました」

「んーっと、今開いてる先生はっと……」


 先生はそう言って、本を開いた。ちらりと見ると、本に知るされた文字がうごめいている。すげーな。タブレットみたいな感じか。


「えっとね、ソフィア先生なら開いてると思うわ。部屋番号は250324番だから、箒で向かって。連絡はこっちでしておくから」

「え、えっと250324番……?」


 どんな部屋番号だよ……。と、思いながらも俺は一礼。


「じゃあユツキさん。今日はここでお別れですね。また放課後に会いましょう」


 そう言ってシェリーとは一端別れ、俺は部屋から出て箒に乗って飛び出した。部屋番号なんだっけ……。ああ、250324番か……。


 どんだけ部屋あんだよ。


 と、思ったが吹き抜けの周囲はどこも部屋、部屋、部屋!! それだけ教師がいるということか……と、思ったが『第35熱量実験室』と書かれた部屋を通り抜けて、その考えが間違えていることを悟った。


 実験室どんだけあんだよ。しかも熱量実験室ってことは別の実験室もあるってことか。


 どっか捨て部屋とかもあるんだろうなぁ……。


 なんてことを考えながら空を飛び続けていると……見つけた。


「ここか」


 部屋番号250324。部屋の隣にはソフィア・フェルリックと書かれている。ソフィア先生というのはここに居るらしい。


 俺は数回ノック。


「失礼します。ユツキですけど……」


 ガッシャーン!! という、ガラスか何かが砕ける音。

 その次に、ドサドサドサっ!! と、紙の書類と魔導書と土で出来た何かの板が落ちる音。


「あ、あわわ……。もう生徒さんが来ちゃった…………」


 あまりに舌ったらずな声。


「そ、ソフィア先生……? どこにいるんですか??」


 声のする方向に歩いていくと……そこに、いた。


 とても小さい。身長は140もないのではないだろうか。同世代と比べても背が低い俺よりもはるかに背が低い。


「あ、あの……ソフィア……先生……?」


 見た目は10歳くらいの少女に見える。そんな少女が書類の山に囲まれて、涙目でこっちを見ている。


「あ、あぅ……。た、頼りになる先生計画が…………」


 ソフィア先生が、半泣きでそう言った。

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