第2-09話 魔術
「
「学校?」
空を飛びながら
「はい。魔法を研究する大きな学校です。だから、この街にいる人の9割は学校関係者なんです」
「へー。そうなんだ」
浮遊都市、というくらいだからなんかカッコイイ展開を期待していたが、あいにくとそういうものもないらしい。
「というか、何で
「魔術を研究するため……って習いました」
「研究するため?」
「はい。ユツキさんは、魔術って何だと思います?」
「ええー。難しいな。魔術ってなんなの?」
俺の簡単な疑問に、シェリーはとても難しい顔をして答えた。
「魔術ってのは、
「万能……ってのは。何でも出来るのか?」
「はい。出来ます。言ってしまえば世界だって作れるんです」
そんな馬鹿な話があるか、と思ったがシェリーの顔はマジの顔だ。
……マジなの?
「そんな万能なものを国が研究すると……どうなると思いますか?」
「独り占めするのか?」
「それなら良いんですけどね」
そう言ってシェリーは微笑んだ。
「
ああ……。
それは、素直に納得出来た。世界が変わっても、人間というのは変わらないということだろう。
俺は戦争を肯定するつもりはないが、戦争は技術を発展させる。それは紛れもない事実だ。それはつまり、国が本腰を入れてその技術の研究開発を行うからである。他国を潰す、その大義名分の下に国々は文明を進める。
「ユツキさんは“
シェリーの声がワントーン低くなる。
……『大戦』。
俺はその話を詳しく知らない。誰も教えてくれないのだ。まるでその話そのものがタブーになっているかのように、誰も俺に教えてくれない。知っているのは『魔神』と呼ばれる化け物がこの世界にモンスターを大量に持ってきた……ということだけだ。
「あの時代は……何でも許されました。勝つために、生き残るために。ねえ、ユツキさん。ユツキさんは地獄を見たことがありますか」
「……地獄?」
シェリーは語る。
「『魔王』がやって来たんです。昔、私たちが住んでいたところに」
『魔王』……? 『魔神』じゃないのか?
「凄いものでした、あれは。ねえ、ユツキさん。ユツキさんは、見たことありますか? 母親が、子供を殺すんです。助からないから。せめて楽に逝けるように、自分の子供を殺すんです。絶望のあまり、自分の目を
「……俺は」
「私は知ってますよ。ユツキさんは、そんな中でも諦めないことを」
そう言ってほほ笑むシェリーの顔は、とても大人びて見えた。
「そんな絶望に対抗するために、何でもやったんです。魔法の改良、人種の改良。兵器の効率化……どうしようもなくなって、“
「だから、浮かせたのか」
「はい。
「飛行魔法は、
「まだ駄目だって思われてるんでしょう。下の国にはまだ早すぎると」
確かに戦争は進めば進むほど、高次元化していく。俺がいた世界だとミサイルなどが主な火力になるが、こっちの世界の文明力ではそこまで高度な火力は無いのだろう。
だが、飛行魔法があれば空からの一方的な攻撃を仕掛けることが出来る。
確かに、それは伝えられないだろう。
「そういうわけで空に浮いているんです」
「って、何でこんな話になったんだっけ?」
「え? 何ででしたっけ……。ああ、
「ああ、それだ。それで、どれが学校なんだ?」
「あそこです」
シェリーがまっすぐ指をさすと、そこには天に届かんとする大きな塔があった。
「あれが学校です」
「でっかいな」
「あの、明日からユツキさんもあそこに通います」
「……初耳なんだけど」
「あの、当たり前すぎて普通に忘れてました」
……勘弁してくれよ。
「でも、どっちにしろユツキさんは学校に通いたがってたと思いますよ?」
「うん? 何で?」
「あそこにいるんです」
空を飛びながら、シェリーは声を潜める。
「誰が?」
「“神の眼”のユウ」
その言葉は、嫌に俺の耳に残った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます