第2-08話 プレゼント

 俺は空中に浮かびながらシェリーをみる。彼女はとても嬉しそうな顔を浮かべて俺を見ていた。


「ユツキさんさっすがです! 流石はユツキさんです!!」

「……ありがと」


 褒められ慣れていない俺は照れ臭くて、素直に感謝を伝えることができない。けれど、シェリーはそれを悟ってくれたのか笑顔で、


「今日はこのままデートしましょう! 一緒に島をぐるーっと飛べば飛行魔法にもなれるでしょう!!」

「あ、ああ。そうだな」


 デート? マジか……。人生初デートだよ……。


 良かったわね。転生して――――。


 そ、そうだな……。


 まさか転生して良かったことにデートが上がることになるとは……。人生、何があるか分からないものである。


「なら、私にしっかりついて来てくださいね!」


 そう言ってシェリーが箒にのって浮かび上がる。俺はそんな彼女の後ろ姿を見ながら、飛んだ。最初は地面から数センチしか上がらなかった俺の浮遊魔法も、慣れればグッと力を増す。凄まじい勢いで地面から離れると、シェリーの後ろについた。


「どうです? 空を飛んでる気持ちは!」

「楽しいよ。爽快だ」

「でしょう! そうでしょう!! 喜んでもらえて何よりです!!」


 ぶっちゃけ、俺よりもシェリーの方が喜んでいると思うがそこを指摘するのは野暮というものである。俺たちは魔術国家マギアロンドの上を箒に乗って観光した。確かに下で言われていた通り、魔術国家マギアロンドにはほとんど男の姿がなかった。


 飛んでいるのはほとんどが魔女である。たまに男もいるが、ほとんどは女連れ。つまりは“人さらい”につかまった連中だろう。やはり、魔術国家マギアロンドにはほとんど男がいないというのは本当なのかもしれない。


「なぁ、シェリー」

「はい? 何ですか、ユツキさん」

「なんで飛行魔法って箒なんだ?」

「さぁ? 最初に作った時に手元にあったからじゃ無いですか?」


 俺としてはそんなステレオタイプな魔女像がこの世界にもあったことに驚きを隠せなかった。魔女は箒に乗って飛ぶ。それにどうしてと聞かれてちゃんと答えられる人間は少ないのでは無いのだろうか。


「箒が無くても飛べるのか?」

「さあ、どうでしょう。それって私たちにとってみれば足がなくても歩けるのか、っていう質問と同じですし」

「そんなにか……」


 そこまで魔術国家マギアロンドの生活に飛行魔法というものが根付いているのだろう。でもよく見れば、確かに他の魔女たちは皆、箒に乗って飛んでいた。誰か1人くらい別のものに乗って飛んでいても良いとは思うのだけれど。


 そいや天使ちゃんはどうやって飛んでるの?


 内緒――――。


 天使ちゃんはそう言って妖艶に微笑んだ。あー、可愛い。


「ささ。ユツキさん。ここからが商店街ですよ!」

「商店街? 商店街なんてあるのか?」

「もっちろんです!!」


 日本で生まれ育った俺にとって商店街というと寂れたアーケードのアレが頭に思い浮かぶのだが、魔術国家マギアロンドでの商店街とは一体全体どんな感じなんだろうか。


 好奇心をくすぐられるがままに、俺たちは商店街に飛び入った。


 入った瞬間に目に入ったのは側面いっぱい広がった無数の商人たち。彼らは浮遊しながら、通りゆく箒に乗った魔法使いたちに商品を一生懸命に売っていた。


「ここは魔道具商店街。魔道具ならなんでも揃ってる場所ですよ!」

「本当になんでも揃ってるのか?」

「んー。ある物あれば、無いものもあるって感じです。けど、無いものは要望を出せばすぐに作ってくれますよ。彼らはすごいんですから!」

「へー」


 俺とシェリーは離れ離れにならないように近くを飛びながら、魔道具商店街を抜けていく。飛行魔法にもかなり慣れてきた。これは自転車と一緒だ。乗れるまでには時間がかかるが、乗れたら後はずっと乗れる。まあ、俺は結構あっさり乗れちゃったわけなんだが。


「ね、ユツキさん。何か欲しいものありませんか?」

「欲しいもの?」

「はい! せっかく魔術国家マギアロンドまで足を運んでくれたユツキさんに私からのプレゼントです!!」

「んー。そうだなぁ……」


 何か欲しいもの。欲しいもの。


 そう思って周囲を見ていると、ちょうど鍛冶屋が目に入った。


「ナイフとかかな」

「ああ。そういえば折れてましたものね」


 さらっとそう言うシェリー。


 ……あのナイフが折れたの、ナノハを殺した時なんだけどな…………。


 と言うことはそこもしっかり見ていると言うことである。勘弁してくれ。


「なら私、良い店知ってます。ユツキさんがきた時に案内できるようにしっかり下調べしてますから!」

「そ、そっか……」


 ……この子怖くなーい?


 と言う俺の心境を知ってかしらずか、シェリーはふっと浮かび上がると上に向かって飛んでいく。俺もその後ろをついて飛んでいくと、大きな武器屋が人混みの中から見えてきた。


「あそこです。あそこが魔術国家マギアロンドの中だと1番大きな武器屋さんです」


 なるほど。確かにシェリーの言う通り、他の浮遊店舗とは大きさが一味も二味も違って見える。ただ、ああ言う店は商品が良いものの値段も高い……と言うことが往々にしてあるのでなるべくぼったくれられ無いようにしたいものだが。


「入りましょう」


 シェリーに案内されるまま、俺たちは浮遊店舗の周囲にある浮いている大地に足を下ろすと店の中に入った。中に入ると、そこにあったのは所狭しと置かれている無数の武器の数々!! 


 全ての武器の種類が置いてあるのでは無いかと錯覚するほどの武器の量がそこにあった。


「これはメルソン様。いらっしゃいませ」


 名前を覚えられているのか、シェリーに向かって店員が挨拶をしてきた。


「そちらの殿方は?」

「前から言ってたユツキさんです。したの『インダスタル』にいらしたので連れてきたんです」

「これはこれは。良かったですね。では本日のご用件は?」

「ユツキさんの武器を見たいの」

「なるほど。失礼ですがユツキ様の職業を伺っても?」

「あ、狩人です」


 言われて俺は狩人証を見せた。店員の視線がその狩人証を見つめ、そして俺の顔へと移る。


「なるほど。これは珍しいご職業だ」

「短剣を見たい。ありますか?」

「もちろんです。こちらにどうぞ」


 店員はすぐに俺たちを案内してくれた。その途中でちらり、と別の武器をみたが値段があまりにふざけていたので、俺は見なかったことにした。武器ってこんなに高いの……?


 店員が「こちらです」と言って手でさした先には多くの短剣類が。だが、それが他の短剣とどう違うのかがわからない。


 俺からすると、どれも同じに見えてしまう。


「おすすめはありますか?」

「こちらなんかいかがでしょう?」


 店員が差し出してきたのは淡い紫色の刃を持った短剣。


「これは……?」

「こちらは魔法を短剣です」


 うーん……。


 俺は少し考える。俺の得意とする戦法は気がつかれないうちに相手の懐に忍び込み、急所に打ち込む。と言うことはだ。魔法なんかをこっちに撃たれている時点で俺の作戦は失敗している。失敗をカバーするならナイフもありだろうが、俺が求めているのは硬い皮膚でも簡単に斬れるようなものが欲しいのだ。


「もっと切れ味だけに絞ったものはありますか?」

「ええ。ございます」


 そう言って店員が出してきたのは白銀に煌く短剣だった。


「こちらはいかがでしょうか? 竜の鱗すらもたち斬れるナイフでございます」

「おー」


 確かにそれはいい。“稀人まれびと“の肌でも斬れるだろう。問題は……値段なのだが……。

 ちらり、とシェリーを見る。するとシェリーも俺の方をずっと見ていて。


「あ、じゃあそれください」


 と、あっさり言ったのだった。


 ちなみにそのあと、値段を聞いて俺はひっくり返りそうになった。

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