第2-05話 人さらい

 ステラと名乗った謎の男と別れて、俺達はスライムのステラと合流することにした。


「しっかし、変な人だったなぁ……」

「そう? 別に普通だったけど」

「いや、普通の人は空から落ちたら死ぬじゃん……」


 俺はユノに突っ込んで、馬車を宿の中に停止させた。


「あいつらまだ部屋にいると思うか?」

「さぁ? ご飯食べてるかもね」


 なんてことを言いつつ宿屋の中を歩いて部屋に入ると、部屋の壁と壁の間にステラがうにょーんと伸び、その上にメルが寝っ転がっていた。


「……何やってんの」

「……力、試し……。復活、してきたから……」

「はぁ?」


 俺が首を傾げると、ステラの上に寝っ転がっていたメルがぴょん! と飛び降りた。


「見せた方が速いわよ」

「それも……そうだ、ね……」


 ステラが身体を縮めていつもの形に戻る。すると、そこには“核”とわずかばかりの身体しか無かったステラはもういない。完全にステラの姿が出会った時のようなまんまるに戻っているではないかっ!


「えっ! すご!?」


 ユノは100点満点のリアクション。バラエティなら拍手の1つでも起こっているところだ。


「……何やったんだ?」


 だが、個人的にはそっちの方が気になる次第です。


「……ユツキ、が……集めてた……“魔核”を……食べた」

「えっ、あれ食ったの? ……いや、別に食っても良いんだけどさ。一言、言っておいてくれよ」

「ご、めん……。でも、おかげで……ここまで治った……」


 【理から外れた者アウター】を手に入れるまでは“魔核”が傷を癒す手段だったので、かなりの数を揃えていたのだ。だが“魔核”に頼らず、身体を治せる今となってはただの甘味料……と言ってしまえばおかしいだろうか。


 しかし、少なくとも俺にとって“魔核”は飴玉のようなもので嗜好品なのだ。


「まあ、治ったんならそれで良かった」


 俺がそう言うと、ユノが一歩前に出た。


「はい、これ」


 そこには俺達が商会から受け取った莫大な金が含まれている。


「これはステラが倒したからステラのもの。必要経費はもう貰っているから、ステラが自由に管理して」

「……必要、無い。金に、興味が……ないんだ。好きに分けると……いいさ」

「分かった。じゃあ、はい」


 そう言ってユノが俺に金を渡してきた。


「ん? 何で??」

「だってステラの飼い主でしょ。ならアンタが管理するべきよ」

「…………そう言うなら」


 持っておこう。だが、これだけの大金だ。

 俺だけが持っておくってのも怖い……というか危険だ。


「黒竜の素材も売れたことで、この街に来た目的の1つは達成できたわけだ」

「そうね。割と早く達成出来たわ」

「次は“稀人”の情報が欲しい。情報屋だな……」

「この街はお金さえ払えば何だって解決するわ。そのお金をいまはユツキが持ってる。良い情報屋を探すの、手伝うわよ」

「ありがとう。それは嬉しいけど……危険だからな。俺がやるよ」

「良いの? 大丈夫?」

「ああ。ステラと2人で探そうと思う。付き合ってくれるか?」

「……構わ、ない」

「じゃあ、それで。俺達はこれから出るよ。これ持っててくれ」


 俺はそう言ってユノに大金を渡す。


「夜までには帰るよ」


 と、いい残して俺はステラと2人で街に出た。


「探す、とは言っても土地勘すらないわけだからなぁ。どうしたもんか」

「適当に……歩けば、良い。そのうち、見つかる……だろうさ」

「そだな」


 とのことなので、街を適当に歩いていく。人の数は『ファウテルの街』より遥かに多い。だが、顔つきが違う。誰も彼もギラギラしている。流石は商売の街、と言ったところか。


「誰かに聞けば分かるかな」

「さぁ……? そんなのより、それっぽい……店を……見つけた方が……速い。例えば、そこ」

「……ん」


 ステラが指した先に会ったのは、大通りから少し入った場所にある無骨な感じの店だが、噂屋と書いてあった。見た感じの具合で言えば『ファウテルの街』にあった狩人ギルドと全く同じ感じなのだが、大丈夫なのだろうか。


「入ってみよう……」


 しかしステラは挑戦者チャレンジャー。平然と店の中に入っていく。すげーなお前。流石に遅れていられぬ。俺は後ろをついて店の中に入ると、平然としたおっさんがカウンターに立っていた。


「いらっしゃい」


 ちらり、と視線だけで椅子に座るように促された。俺はそのまま座ると、おっさんはお茶……いや、コーヒーっぽいものを入れ始めた。


 ……うん? ここ、喫茶店か??


「それで、何が聞きたい?」

「何が……?」

「おいおい、看板を見て入ってきたんだろ? なら、ここが何の店かは分かるだろう」

「じゃあ、ここは情報屋……?」


 俺の疑問におっさんはわずかに肯定して見せた。


「……“稀人”について、聞きたい。この一か月で、この世界にやってきた新しい“稀人”について」

「ほう。耳が速いな」

「俺が知ってるのはここまでだ。どこまで、知ってる」

「この店の支払い方法は2つ。情報か、金だ。どっちか選べ」

「……情報なら何でもいいのか?」

「その価値はこっちで決める。足りなかったら差額を金で払え」


 情報で行きましょう――。


 でも俺が知ってることは向こうが知ってるかもよ?


 ナノハのことなら、高く売れるわよ――。


 そっと天使ちゃんが笑う。


「なら、情報で」


 そうはいっても、彼がどこまで情報を得ているか分からない。


「言ってみな」

「『ファウテルの街』にいた、“稀人”が死んだ」

「……“魔物の姫”か。だが、その話はもう耳にしている」

「殺したのは、“稀人”だ」

「……何?」


 食いついた。


「……それは、確かなのか?」

「勿論」

「……だが、『ファウテル』に“稀人”はいなかったはず………。また新しく来たのか……?」

「それで、これはどれくらいで買ってもらう?」

「興味深い情報だった。お前の欲しい情報に応えよう」

「ああ。頼む」

「……1ヵ月以内にこの世界にやってきた“稀人”は6人。1人はファウテルに、1人は皇国に、1人は魔術国家マギアロンドに、1人は王都に、1人はヴァルットに、1人は共和国にいる……らしい。だが、お前の言っている情報が本当なら7がいる」

「それについて俺は知らない。ありがとう、知りたいことは知れたよ」


 ……魔術国家マギアロンドに1人、か。


 俺は差し出されたコーヒーらしき液体を飲んだ。苦い。だが、コーヒーとは違った後味だ。美味しい。それを飲み切って、俺はおっさんに別れを告げると店の外にでた。


 ステラと名乗ったあの男が俺から奪ったうちの誰かか? と思ったが、俺から奪った4人の顔はしっかりと脳に刻んでいる。忘れるはずがない。


 どうにかして、行ってみないと話にならない。そう思って、空を見上げる。そこには相も変わらず、浮遊都市がそこにあって。


「どーしたもんかねえ」

「飛ばそう、か?」

「不法侵入じゃねえか。捕まるわ」


 なんてことを言って帰ろうとした瞬間、俺の前に箒にのった少女が降り立った。


 ……魔女!


「あの」

「はい?」


 小さな女の子だ。歳の程が掴めないが、俺より年下なんじゃないだろうか。14、15くらいか?


 気が付けばいつの間にか、屋根の上に魔女たちが降り立っている。


 ……囲まれたか?


「その……。あの……」


 小さな女の子は顔を真っ赤にしながら、俺のほうを見る。ちょっともじもじしてる。……何々? 何がはじまるの?


「ひっ、一目惚れしました! 私と一緒に来てください!」

「………………は?」

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