第2-03話 売却
宿で一泊したあと、俺たちは竜の遺物を売るための商会を探しに出た。
「こんな恰好で行って、入れてもらえるもんなのか?」
「良い取引なら門前払いってことは無いわよ。ここは商人の街。良い取引を自分の
「それは……商人としての言葉か?」
「そう。1人の行商人としての言葉よ」
ユノは馬車を進めながらそう言った。俺達が中心街に向かうにつれてどんどん建物が高くなっていく。3階建てが5階建てに。5階建てが7階建てに。7階建てが10階建てになる。
この街の取引は王国からの税金が驚くほどかからないそうだ。だから、商人たちは大きな取引のほとんどをこの街で行う。結果として、インダスタルは王都屈指の産業都市へと成りあがったのである。
恐らくマギアロンドもそこら辺を考慮して、この街に降りてきているのだろう。いや、ひょっとしたら彼女たちの技術を買い取れるだけの金を持っているのはこの街だけなのかも知れないが。
「ちょっと不格好かな?」
ユノは自分の服を見ながらそう言ったが、
「良いんじゃないか。行商人らしくて」
「そう? じゃあこのまま行こ」
別に俺はそれが変だとは思わないので、アシスト。ちなみにステラとメルは来れば話がややこしくなるので今回は街の散策に出かけている。馬車に乗っているのは俺とユノの2人だけだ。
「み、見て! ロクドウ財団の本社だわ! あ、あっちにはナナナノ商会も!! 嘘……。あそこにあるのってマチマト商事だわ……」
「1つも知らねえなぁ……」
「あそこで働いてるのは王都の学校で鍛えに鍛え抜かれたハイパーエリートなの!! 1晩で国家予算規模のお金を動かしたりとか、1日で1国の市場を潰せる大財閥なのよっ!!」
「……そんな連中がこんなところに集まってるのか? 危なくない?」
「危ない? 何で??」
「だって、他の国から攻撃されたら一網打尽になっちまうぜ」
「馬鹿ね、ユツキ。そんなことしたら、
「……物騒だな」
「ここにある巨大資本なくして今の国々は成り立ってないもの。下手に手を出そうもんなら、王国が宣戦布告する前に国が消えちゃうの」
「金の力って怖いねえ」
そんな巨大資本のお膝元を馬車で進んで行くのは確かに不格好かも知れない。だが、『竜』の遺産を買い取れるほど金を持っているのは、中心街にある巨大な企業だけだ。
「どこに入るのかは決めてるのか?」
「最初はナナナノ商会に行ってみようと思うの」
「どうして?」
「ナナナノ商会は冒険者ギルドのバックについてるもの。冒険者が狩ってきたものを右から左に流して利ざやを稼いでるだけじゃなく、土地を見つけた冒険者の開拓支援をすることでその街の売り上げの1部を持って行ってるの。竜の素材も、きっとナナナノ商会が一番うまく使うと思ったからよ」
「すげーちゃんとした理由じゃねえか。よし、なら行こうぜ」
そこまで決まっているなら行かないほうがおかしい。
ということで、俺達はナナナノ商会のビルに向かった。門前払いを喰らうかと思ったが、話を聞くだけなら聞くということで去年入ったばかりの新人さんが対応してくれた。
「本日はどういったご用件で?」
ウーロン茶っぽい味のお茶を1口飲んで、ユノが言った。
「とあるモンスターの素材を買い取っていただきたい」
「……なるほど。モンスターの種類と数はどれくらいですか? ああ、数は100体を基準で大丈夫ですよ」
……え、この商会ってモンスターの素材を100単位で買い取ってんの? いや、そりゃそうか。冒険者ギルドのバックを支えているなら、それくらいにはなるのか。
「モンスターの名前はドラゴン。それも悪名高き黒竜、“輝ける”オリオンの素材だ」
「ごふっ! げほっ!」
ユノがそう言った瞬間、何も無いのに新人さんが噴き出した。
「ちょっ。ちょっと待ってください! 冗談、ですよね?」
「冗談なものか。現にここまで持ってきている。気になるのであればナナナノ商会が誇る鑑定団に確認してもらっても良い」
「いや、だって“輝ける”オリオンは『ファウテルの街』の近くで殺されたって……。……あの、どこから来られたんですか?」
「『ファウテル』からだ」
「あぁ…………」
新人さんは全てを悟ったのか、一瞬だけ遠い目をした。
「分かりました。上に聞いてきます。少々お待ちください!」
と、そう言うと慌てて部屋から飛び出していった。そこで俺達は顔を見合わせて一安心。
「いやー。門前払いをくらうかと思ったけど案外ちゃんと話を聞いてくれるんだな」
「ねー。私もこの恰好で大丈夫かと思ったんだけど、ちゃんと話聞いてくれたし」
「やっぱり人を見た目で判断しないように教育されてんのかな?」
「それはそうでしょ。凄い冒険者がわざとみすぼらしい恰好して物を買いにくることだってあるのかもだし」
「客を見極めないといけないのか。大変だな」
前の世界では、いかに金を持っていようともそれなりの恰好をしなければ入れないような店もあったがこっちの世界でそんなことをすれば、懐のあったかい客を逃してしまうかも知れない。
そうなると、その客が本当に金を持っているのかどうかを良く見極める必要がある。
これを大変と言わずしてなんと言おうか。
「すみません。準備がでにきました。こちらにどうぞ」
新人さんの後ろには初老の男性。ナナナノ商会のお偉い人だろうか? それにしては出てくるのが速いと思うが……。
「鑑定団を下に用意しています。荷物は馬車の中にあるんですよね?」
「ああ。そうだ」
ユノが頷く。
俺達は1階に移動。止めていた馬車の中を開いて、新人さんたちにオリオンの鱗や背骨を見せた。
「ほう……」
初老の男性は一言そう言うと、大きく目を見開いた。
「なるほど。この歳まで多くの贋作を見てきましたが……これはそれらとは確かに違う。明らかに一線を画しているっ!」
「本物、だからね」
ユノは肩をすくめてそう言った。
「す、すいません。遅くなりました」
遅れてやって来たのはナナナノ商会の鑑定団。持ち込まれたモンスターの素材が本物かどうかを調べあげるエキスパートらしい。
「では失礼して。背骨から」
青年が1人、馬車にのると背骨を執拗に調べ始めた。大きく時間をかけて15分。彼は突然わなわなと震え始めた。
「おい。どうした?」
初老の男性が青年に尋ねる。
「ほッ。本物ですッ!! す、すごい!! は、ははは初めて見た!!!」
「……っ!!」
初老の男性はそれを聞いて短く唸った。
「よし、お前は会長に知らせてこい」
「わ、分かりました」
男の指示で新人さんが建物中に戻って行く。
「い、今の内に他の素材も鑑定します……!」
震えながらそう言う鑑定師。
馬車からの悲鳴じみた叫び声は、それから幾度となく連鎖した。
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