第16話 レベルアップ
ファウテルの街に来て、1週間が経った。本格的に行動を起こしたかったがナノハの動向が全くつかめない。コレットちゃんに少しだけ話を聞くと、何でもナノハをファウテル家が囲もうとしているという噂があるのだとか何とか。
メルにアポを取って話を聞いてみようかと思ったが、こんな状況でメルにアポを取ろうものならそこからバレる可能性がある。そのため、動くに動けず1週間はほとんど狩人として依頼を受けていた。
「ねえねえ、ユツキさん!」
「どうしたんすか?」
もうすっかり常連となった狩人ギルドで俺はコレットちゃんに依頼板を手渡された。
「そろそろ次のステップに踏み出してみませんか?」
「次のステップ?」
「はい! オークの討伐です!!」
「オーク?」
オークっていうと、あれか。でっかい身体のアイツか。実際に見たことは無いが、レイやステラが何度もその存在を語ってくれた。
曰く、異常に繁殖能力が高い。
曰く、筋肉が異常に発達している。
曰く、幼児並みの賢さがある。
曰く、曰く、曰く。
何でも5年前に終戦した人とモンスターとの大戦争で、大勢の女性が被害にあったのだという。だからオークの討伐は基本的に男だけでやることが多いのだとか何とか……。
「オークが、出たんですか?」
「出たって言うか、元々あの森の奥の方には住んでるんですよ」
「はぁ」
「最近、数が増えたのか『街』の方に来ることが増えまして。そこで狩人ギルドに依頼が来たんです。ぜひオークを倒して欲しいって」
「私兵団は出ないんですか?」
「あれ? 知らないんですか?」
コレットちゃんはさも意外そうに首を傾げた。
「私兵団、壊滅したらしいですよ」
「壊滅? 何でまた」
「黒竜討伐に向かった兵士さんたち、みんな死んだそうです」
「……マジですか?」
「マジですよ。残ったのはナノハさんとノフェス様だけらしいです」
「だから、ファウテル家はナノハ……さんを囲い込もうとしてるんですかね」
「そうなんじゃないですかね」
そう言ってコレットちゃんは一息。
「だからこそ、今がチャンスなんですよ! 私兵団は危ないってイメージがついちゃいましたけど、狩人にはまだそんなイメージがついてないですからね!!」
「知られてないだけなんじゃないですか?」
「だとしても!!!!!」
ばぁん! と大きく机をたたいてぐいっとこちらに顔を寄せてくるコレットちゃん。
「ユツキさんに頑張って欲しいんです!」
「まあ、頑張りますけど……」
そもそも狩人ってダサいとかムサいとかそういうイメージがついてる気がするんだよなぁ……。前の世界でいう肉体労働みたいな扱いを受けてるような気がする。あんまり狩人ですって言っていい顔されないし……。
職業に
「ということでオークの討伐、お願いします!」
「数は?」
「1体以上で!!」
「場所は?」
「南門から出た先の森の中です」
「雑ですね」
「行けば分かりますから……」
と言ってコレットちゃんは俺達を見送ってくれた。
「雑なのは良いんだけどさ」
「…………。うん?」
「ここ数日、俺達以外の狩人って何してんの?」
「……見ないね」
何でもかんでも2人――正確には俺だけ――に仕事が回ってくるのだ。あまりにおかしい。これでは狩人たちは全然仕事をしていないことになる。
「いないんじゃないか」
「……………。まさか……」
ステラと一緒に森に向かう。結構久しぶりに来るな。2日ぶりとかか。そう思って歩いていると、南門への入り口に兵士が2人立っていた。
「あーダメダメ。いまここ封鎖中」
……マジか。
俺は兵士の2人に何があったのかを聞き返した。
「何かあったんですか?」
「オークが出てるんだよ。腕のたつ冒険者とか狩人とかが同行しないとこの先進めないの」
「そのオークを狩りに来たんですけど」
そう言って俺は胸元から狩人ギルドの証を取り出して見せた。いついかなる時でも狩人としての誇りを忘れないようにと磨き上げられた証だ。おら、くらえ!!
兵士2人はその証を見て、互いに顔を見合わせると大爆笑し始めた。
「わはははははっ!! 何を、何を言い出すのかと思えば!!!」
「オークを倒すって! 無理無理やめときなよ。ぶっ!」
おーん?
「……。通ろう」
「そうだな」
ステラはこんなのに構うなと言いたげに震えると、そのまま2人の間を縫って森の中に入った。俺はそれに肩をすくめると、2人の間を通り抜ける。
「やめとけって!」
笑いながら伸ばしてきた兵士の手を払う。
「仕事なんだよ。邪魔しないでもらえるか?」
俺がそう言うと、兵士は急に真顔になってぽかんとした顔をしていた。
「…………あ」
「あ?」
兵士はその時、俺の後ろを見ながら2歩後ろに下がって、尻餅をついた。反射的に後ろを振り向くと、巨大な筋肉!
身長は2m40cm。ゴリラみたいな筋肉で、手には丸太みたいなこん棒を握っている。口から生えた牙が上と下からそれぞれ自分の存在をこれでもかとアピールしていた。
オークはこちらを見降ろして、こん棒を持ち上げた。
これは、やばいっ!
「ステラっ!!」
ズドドドッッツツツ!!!!
俺が名前を読んだ瞬間、工事現場みたいな音がオークの背中から鳴った。見るとステラが身体を変形してめっちゃオークを殴っている。必然的にオークの意識がステラに向く。今がチャンス。俺はそっと『隠密』スキルを発動すると、ずずっと世界に溶け込んだ。
オークはステラを無視出来ないと思ったのか、こん棒を降ろしてのしのしとステラの方を向いた。
「おい! あの狩人どこいった!?」
「逃げたか!!?」
逃げてねえよ!!
なーんて声を上げたらせっかく自分の姿を隠したのに意味がない。口うるさい兵士たちを無視して、俺はオークの後ろに近づいた。オークはステラを潰そうと何度も何度もこん棒を振り降ろしていたが、ステラはそれをぬるぬると回避していた。
しかしオークは身長が高いな……。
後ろからその体を見上げてそう思った。何しろ2m越えである。心臓を刺そうにも、このナイフじゃ心臓まで届くか分からんし……。しゃーない。やるか……。
俺はそのまま助走をつけてジャンプすると、オークの背中を蹴って首を腕でしっかりホールド。そして、そのまま首の後ろにあるうなじの部分を短剣で断ち切った。
「グブゥ!!」
オークが苦しそうな声をあげたので、俺は慌ててオークから離れた。
「え!? 勝手に斬れた!!?」
「なんで!?」
何でじゃねえよ。俺が斬ったんだよ。
ツッコミたい気持ちを抑えて、俺はもう一回『隠密』スキルを使って隠れるとオークの背中から心臓があるであろう場所にナイフを突き立てて……パキン!
……えっ!?
甲高い音が手元から響いたので何かと思えば、オークの背中の筋肉が硬すぎてゴブリンから盗んだナイフが折れてるゥ……。
踏んだり蹴ったりというか、泣きっ面に蜂というのか。とにかく悪い事というものは続くもので、『隠密』スキルが解除される条件である対象に触れるってのが、これで達成されてオークがゆっくりと俺の方に向き直った。
逃げなさい――。
「分かってるよ!!!」
思わずそう叫んでしまうほど焦って、俺は地面を横に蹴った。
ズドッ!!!
直後、俺がいた場所にオークがこん棒をためらいなく振っていた。怖っ……。
しょうがないからもう一回、『隠密』スキルを発動して……。だが、ずずっと世界に溶け込む感覚はなく、その代わりに。
“『隠密』スキルの使用回数が規定値に到達しました”
“スキルレベルアップ条件の達成をチェックします”
“条件の達成を確認しました”
“『隠密Lv2』を入手しました”
と、変な声が響いた。
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