第10話 冒険者崩れ
「冒険者崩れだよ? スライム君、君は勝てるの?」
ステラのとんでも案にレイが突っ込んだ。
「………僕と、ユツキがいれば……。余裕。……ちなみに、僕の名前は……ステラだ……。“
「は? 俺もやんの??」
「……当たり前…………」
さも当然だと言うかのようにステラはそう言って、身体を変化させた。
「……僕が……奇襲して、1人を……戦闘不能に……する」
「それで?」
野盗の数は6人。ゴブリンも6人組だが、6という数には何かあるのかもしれない。だが一方で馬車についている護衛っぽい人の数は2人だ。
「残り5人……注目が……僕にあつまる……。そこで……ユツキが1人の首にナイフを当てて……捕まえる……。そうすれば……護衛と、僕……。そして、レイの4人で向かえば勝てる……」
「よし、やめよう」
「ちょっとユツキ!?」
「馬鹿馬鹿。不確実性がたかすぎるだろ……。絶対うまくいかんぞ……」
「……上手く……いかなくても、なんとか…するのさ……」
そういってステラはずずずっと走り始めた。あーあ。駄目だ、人の話を聞いてすらねえ。
「クソっ! あの野郎!」
「え。スライム君って男なの!?」
くっそどうでも良い事にレイが引っかかったみたいだが、本当にそこはどうでも良くない?
とにかくステラは俺が動くことを考えて動いている。俺は再び『隠密』スキルを発動。ずっと、世界に溶け込んでいく。世界から俺だけがいなくなるような疎外感。寂しさ。
それらを心の中で養殖して、世界に押し付ける。
俺が走っているというのに、誰一人として俺の方を向いていない。まるで透明人間にでもなった気分だ。子供の頃のような万能感すらも覚える。
何でも出来る。今の俺には、何でもできる。
ステラは加速と同時に跳躍。水切りの石みたいに地面を2回バウンドすると、一番近くにいた野盗の横腹に自分の身体ごと叩きつけた。メシィッ! と嫌な音が響いて、野盗が泡を吹いて倒れた。
あれは痛そうだ……。
「くそっ! モンスターだ!」
「スライムだぞ!」「何やってんだ!!」
ちょっとだけ、野盗たちが騒然となる。その時、俺の身体はほとんど勝手と言っていいほどに、残った5人の中で1人を選んでいた。何で彼を選んだのかは分からない。ただ、長い間いじめっ子たちを見ていて、その中で誰がリーダーなのかってのが勝手に分かるようになってたせいかも知れない。
多分、俺が選んだ男は6人のリーダーだ。
「動くな」
俺は自分のナイフではなく、男の腰についていた短剣を抜いてそれを彼の首に添えた。
「な、ど、どこから……!?」
「今すぐ撤退しろ」
「はっ、何言ってやがる――」
男はすっと自分の腰に手を回して、武器を取ろうとしたがそこに何もない事にその時、気が付いた。
「死にたいのか?」
俺は人を殺したことは無い。それに、この野盗たちを殺したいとは思わない。だが、目の前にいるこの男にはそのことは分からない。
「両手を上げろ」
俺がそう言うと、男は自分の両手をそろりそろりと上げた。そのタイミングで、俺は『隠密』スキルを解除する。
「やれッ! ステラ!!」
その言葉を聞いたステラは跳躍。粘動性の身体を動かして、近くにいた野盗へと襲い掛かるとヒュッ! と空気が悲鳴を上げるほどの速度で2連撃を叩き込んだ。遅れてナイフを抜こうとした野盗はあまりの衝撃に身体をくの字に折って前方に倒れ込む。
その後ろで、ぽうっと光が灯った。思わず視線を動かすと、1人の男の手元に燃え滾る炎の球が出来ているではないか!!
あれは……。
魔法よ――。天使ちゃんはそっと、耳元をくすぐった。
その男はステラめがけて魔法を撃とうとして、レイの鞘がその腕を砕いた。
「えいっ!!」
レイは剣を鞘に納めたまま、魔法を使おうとしていた男をフルボッコ。何度も何度もたたいて、気絶したのかばたっと動きが急にとまった。俺は再び『隠密』スキルを発動。そっとリーダーの後ろから離れると、残る2人のうち片方に近寄ってリーダーと同じようにホールドアップ。
護衛の1人が、残る1人を倒してゲームセットだ。
「……助けていただきありがとうございました」
護衛の1人が深々と頭を下げた。その後ろでは野盗たちがぐるぐる巻きに捕獲されている。
「危ないところでしたね」
俺がそう言って笑う。
これ俺がやんなきゃ駄目なの?
嫌いなんだけど、知らない人とコミュニケーション取るの……。
「本当になんとお礼をすれば良いのか……」
その時、がちゃりと音を立てて馬車の扉が開いた。
「助けて、くれて……ありがとう」
ぺこり、と頭を下げたのはまだ10歳にも満たないような少女だった。水色の綺麗な服に身を包んで、髪の毛は透き通るような金の髪。目は宝石かと疑うような青だった。
「お、お嬢さま! まだ馬車から出てはいけませんよ!」
「そ、そうですよ! 危ないですよ!!」
「でも、その人たち。私を助けてくれたから」
かわいい女の子はどうやらお偉いさんらしい。確かに着ている服とか明らかに上質なものだし、肌色もとてもいい。いい物食ってる顔してる。
え? 俺?? 聞くんじゃないよ……。
(……最悪だ…………)
(何が?)
ぽつり、とステラが言った。
(貴族は……貴族でも…………。子供……じゃあ、ないか……)
(それの何が最悪なんだ?)
(……リスクと、リターンが……見合わない…………)
(?)
ステラは時々、自分だけで完結する癖がある。キチンと説明して欲しいものだ。
「恩返しをしたいの」
その時、目の前の少女がそう言った。
「恩返し?」
「うん。何が欲しい?」
その言葉に俺とレイは目を見合わせた。そして、俺が言った。
「馬車」
「……あげれない」
「まあ、流石にか。ちなみにこれはどこまで行くんです?」
相手がいちおうお偉いさんということで敬語の1つでも使っておこうと思い、少女に尋ねる。すると俺の言葉に目の前の少女は胸を張った。
「ファウテルの街よ」
「なら同行させてもらえないか!?」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいね!!!」
俺がそう言ったタイミングで、護衛の1人がかぶせてきた。
「流石に身分がちゃんとしていない人をお嬢様と同じ馬車に乗せられませんよ!」
「女神の証を見せてください!!」
「女神の証?」
初めて聞く単語に首を傾げると、俺の肩にそっと手が置かれて後ろに引かれた。
「僕はレイ。“彼方の刃”のレイ。こっちは“
「れ、レイさん!? “彼方の刃”って、リタさんの妹!!?」
「そうだよー」
軽く返事を返したレイに信じられないと丸く見開いたまま護衛の視線が俺へとスライド。
「そ、それに……。あなた、“
「そうです」
俺たちの自己紹介に護衛2人の目が合わさって、そして頷いた。
「お嬢様、どうなさいますか?」
「2人とも、乗って」
俺とレイは目を合わせて、ハイタッチをした。
ちなみにステラはぶるぶると震えていた。これは笑っているんじゃなくて喜んでるんだな。
歩くのが相当しんどかったんだろう。……スライムなのに。
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