突然の別れ

「本当に行ってしまうのね」


「ああ」


「そう、それじゃあさようなら」


ずっと一緒にいられると思っていた彼との時間は、なんの前触れもなく終わってしまった。

ずっと一緒にいようと誓い合っていたのに、言葉というのはなんと無力なものだろうか。


この道は、いつも彼と手を繋ぎながら歩く道。

彼はいつも、必ずこの道を歩いて私の家へと向かう。


思えばこだわりの強い人だった。

デートの場所を私が提案しても、どこか気に入らないところがあると結局彼の提案の場所になってしまう。

水族館や遊園地などの定番のデートは嫌ってしまう人だったし、人が多いからと電車にも乗ってくれない。


ただ、ドライブデートしている時の彼はとても楽しそうで、本当に車を運転するのが好きなんだと思い出す。


シャイで写真は絶対に一緒に撮ってくれなかったけれど、ひそかに隠し撮りした写真をフォルダーに収めている。


友達に話すと「そんな彼で大丈夫なの?」と言われていたが、私はそのくらいのこだわりどうってことなかった。

彼と一緒にいられるならば、少しの弊害くらい気にならなかったのに。


「どうすれば戻れるんだろう」


始まる時も一瞬だったけれど、終わる時も一瞬。

すべて夢だったのではないかとさえ思わせられる。

きっと彼は、すっきりとした気持ちで新しい彼女でも作るのだろう。

私の知らないところで、楽しく笑いあうのだろう。



彼と別れて、1週間が経った。

未だに仕事終わり、彼が来るのを待ってしまう。

もう来ることなんてないのに。


それから1ヶ月が経ち、私は一人旅に出ようと電車に乗った。

どこにいても彼のことを考えてしまう私に見切りをつけるためと、友達が提案してくれたのだ。


一人で乗る新幹線は、周囲の声がよく聞こえる。

幸せそうなカップルの姿に、かつての自分を重ねる。

彼の低く穏やかな声は、今でも鮮明に思い出せる。


頭の中で彼との会話を思い出していた時「本当、楽しみだな」と彼の声がリアルに頭に響いた。一瞬夢か現実かわからなかった。

これは夢なのだと思う。


だって、私の前の席に座る小さな女の子を連れた夫婦の片方が、彼の顔に見えたのだから。

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この結末は、あなただけが知っている なぎ @nagina34

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