侵入者


「本当にやるの?」

「今更何おじつけづいているんだよ。ずっと前から何度も話し合っただろう」


真っ暗な部屋の中を男女が何事かと話している。二人にとってここは、目を瞑ってでも歩ける場所だ。


「このブツだって手に入れたんだ。この時点で、もう後戻りはできない」


男はその物を握りしめながら、暗闇の中を迷うことなく突き進む。


後ろで怯えていた女も、男の躊躇ない足取りに釣られるように歩き出していく。


二人は足音を立てることなく、ゆっくりと着実に進んでいく。


部屋の主人に気づかれている様子はなさそうだ。


「俺はここでブツと共にいる。お前は、来ないように廊下で見張っててくれ」


怯える女を一人、暗闇の廊下へと進ませ、男はその時を待つ。


女は一瞬、拒否しようと声を出しかけたが、諦めたように廊下へと向かった。


それから女は、ただ静かに待っていた。時折聞こえる物音を聞きながら、時に音の正体に怯えながら廊下にただずんでいた。


そんなことを続けた数十分後、急に廊下がパーっと明るくなった。


「へっ」


女が間抜けな声を上げると同時に、灯りをつけた本人も小さな悲鳴をあげる。


その声を聞きつけて、男も廊下にやってきた。赤く染まった大きな包丁を掲げながら、男はびっしょりとかいた汗が張り付く顔を向け、鬼の形相で女を睨みつけた。


「二人して、こんな時間に何やってるの?」


「いや、これは」


「マグロが...」


女は男の包丁を見つめながらボソリと呟いた。途端、暗く静かだった家の中に、寝静まった犬が飛び起きそうな声量で笑い声が響き渡った。

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