第34話
街中で突然始まった言い争いに、俺は野次馬根性を発揮して様子を窺う。
他にも街の人間が何人か現れて遠巻きに眺めていた。
男3人の冒険者も男女2人も……というか主にとんがり帽子女は完全にやる気だ。
「雑魚と馬鹿は力の差も理解出来ないみたいね、ぶっ飛ばしてやる!」
冒険者たちの方はさすがに街中で武器を抜くつもりはないらしいが拳を固く握りしめている、一方の女の方は余裕の表情で数歩ほど隣の男より前に出た。
そして片手を前に出し手のひらをくいっくいっとする。かかってこいよとでもいいだけなジェスチャーだ。
それを見た男たちは額に青筋を浮かべた。
「やってやる!」
「怪我しても知らねぇぞ!」
「覚悟しろやーー!」
「吠えるな吠えるな三下のお猿さん冒険者風情が! ズタボロにして絶望を教えてやろうかぁっ!?」
3人がそれぞれ怒鳴りながらとんがり帽子に殴りかかった、はたから見ると年上の男3人が年下の女1人に襲いかかっているので普通に後で捕まりそうなのは男3人なのだが、頭に血が上ってそんなことには考えが回らないんだろう。
とんがり帽子女の方の口の悪さもあれだしな。
冒険者の1人が拳を握り殴る、それを余裕綽々の態度で躱しす女。残りの冒険者もパンチを繰り出すがその全てを躱した。
あのとんがり帽子、口だけじゃないな。様子からして場馴れしてる気配がもりもりする。
とんがり帽子は悪そうな笑顔で冒険者たちを馬鹿にする。
「当たるかそんなトロいパンチがよ、暴力しか能がないのかウスノロ共が!」
とんがり帽子女の足元に 3つの魔法陣が現れる、その魔法陣が地面を這うように移動し男たちの足元に移動した。
男たちは驚愕する。
「まっ魔法だと!?」
「このアマァ!」
「ふざけんなよ!」
「………くたばれ、ブラストサークル!」
とんがり帽子女が指先をパチンと鳴らした、すると魔法陣が爆発して男たちが吹っ飛んだ。
まあ生きてはいるらしいが黒こげである、あのとんがり帽子アタマがイカレるな~。
「……お前、街中で攻撃魔法とか何考えてんだ!?」
相方のインテリ風が全力で狼狽している。
そりゃそうだ魔法がある世界だからと言って街中で魔法は基本的にご法度である、俺がいた国で言う銃刀法違反みたいなもんかな。
しかしとんがり帽子女はそんな忠告などどこ吹く風、ニヤニヤと笑いながら男に言う。
「アタシを相手に暴力振るおうなんていう腐った野郎共の方が悪いんだよ」
「そこはある意味……正しいかもだがお前の口の悪さにも問題があるんだぞ」
確かに、言わなくていいことをこいつが言ったんじゃないのかという勘ぐってしまうよな。あそこまでケンカ腰だとさ。
「ちょっと声をかけられたからって相手にしなければいいだけだろう、何でお前はそんな風に物事をめんどくさい方向に持っていくんだリカラ」
「うっさいアピオ、私のやることにいちいち口出すんじゃないよ」
リカラと呼ばれたとんがり帽子女が口を尖らせる。尊大な態度にアピオとよばれたインテリ風男子 はため息を一つ。
そして当然ながらそんだけ揉め事を起こせば街を見回って回っている兵士とかもさすがに集まってくる、多分フレッゾの街の人間が兵士たちを呼んだのだろう、兵士たちの声や足音が聞こえてきた。
それに気づいた2人は顔を見合わせ、せっせと逃げていくあんな騒がしい2人はここ最近じゃ全く見なかったな、おそらく俺と同様のよそから来たやつらなんだろう。
男女ってことはカップルだったりするのだろうか………なんかムカつくな。
俺は目の前で熱々のカップルとかいるとイラッてしてしまう心の小さなチビエルフなり、仲良くしてなくてもカップルなんて苦しめと思ってしまうのだ。
テントウムシっぼい虫のゴーレムをとんがり帽子のマントにちょっとくっつける、なんか酒の肴になるような痴話喧嘩とか聞けるかもしれないなと思ったからだ。
人の不幸は蜜の味、フフフッなんかトラブルに巻き込まれてヒドイ目に遭ってもかまわんよ? とんがり帽子女とインテリ風眼鏡のカップルめ。
ゴーレムも使い、逃げながら2人が何か会話をしていないかと聞き耳をたてる。
「リカラ… お前は本当に無駄に目立つんじゃないよー! 俺たちが何でここに来たのか忘れたのか!」
「忘れるわけないでしょ、こちとらこれでもれっきとした魔族、きちんと仕事してこの街には潰れてもらわないとね」
「分かってるならいいんだけどさ~」
おやっおやおや~~?
何やらきな臭い会話を始めちゃいましたよお二人さん。これっ完全に人類の敵側発言じゃないか。
これはまさか、変な当たり引いちゃったかもな。
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