第7話

 聞き覚えのある声に振り返ると、後ろに大きい猫さんが立っていました。片手に持った傘を差し出し、もう片方の手には小さい猫さんを抱っこして。


「迎えに来たよ奈柚なゆずちゃん。遅くなってごめん、家族になる準備を整えるのに時間がかかってしまって」

 大きい猫さんはピカピカの靴を履いて後ろ足で立ち、毛並みも綺麗になりとても立派なスーツ姿で私の前に現れたのです!?。


「大きい猫さん…」

 会えたのがとても嬉しいのに、驚いてしまった私はすぐには次の言葉が出てきません。すると私の前に、スーツを着た背の高い若い男の人が進み出てきました。


「社長、彼女ものすごく驚いた顔をしていますよ。やはりアルマーニのスーツに猫耳と尻尾がダメなのでは?。感動の再会が絵面的に台無しですよ…」

 眼鏡をかけた神経質そうな顔立ちの男の人は、大きい猫さんのことを『社長』と呼び、私のほうへ近づいてきたのです。


 書類のような物を差し出されましたが、私は知らない男の人が怖くてビクッと体が震えてしまいます。なので大きい猫さんのふっくらしたお腹周りに両手でぎゅっと抱き着き、その背中に隠れました。


「俺のほうが至極真っ当な恰好をしていると思うんですが、何で俺が怯えられて社長はぎゅう・・・されてるんですかねぇ…」

 眼鏡の背の高い若い男の人は、解せぬという顔でぼやきました。


雨京うきょうくん、君はとても優秀な秘書だけど、いつも一言多いよね…」

 大きい猫さんは、そう言うと溜息を一つ吐きました。


 この眼鏡の背の高い若い男の人は、どうやら大きい猫さんの秘書さんのようです。


 『あっ…!? お弁当の人だ!』秘書さんの顔をマジマジと見た私は、ようやくその男性がお弁当を届けてくれた人だと気づきました。でも『ありがとう』という言葉は喉元で止まってしまい、口に出せずにモジモジしてしまいます。


「家族を失って…何もかもが嫌になって人間辞めたくなって。会社を部下に放り投げてホームレスのような暮らしをしていたんだ。でも奈柚なゆずちゃんに拾われて大事にされて、また頑張る元気を取り戻したよ」

 小さい猫さんを地面に下ろすと、大きい猫さんはその大きな手で私の頭をポンポンと撫でてくれました。


「君のお父さんやお母さんともきちんと話をつけてきたよ。だから安心して僕と一緒においで、奈柚なゆずちゃんはもう一人じゃないんだ、また一緒に暮らそう」


 大きい猫さんはそう言うと、大きな手を差し出してくれたのです。

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