第6話

 一週間が過ぎ、半月が過ぎでも…私の祈りが聞き届けられることはありませんでした…。


 でも大きい猫さんがいなくなった後、学校から帰ると、食べ物が入った袋が玄関のドアノブにかけてありました。その袋にはお弁当やキャットフードやおやつが入っていて、おかげで私と小さい猫さんがお腹を空かせることはありませんでした。


 もしかして、大きい猫さんが持ってきてくれているのかも?。大きな猫さんに会いたくて溜まらない私は、学校からいつもより早く帰って、アパートの玄関が見える植え込みの中に隠れ張り込みをしました。


 ところが現れたのは、大きい猫さんではありませんでした…。スーツを着た背の高い若い男の人だったのです。

 眼鏡をかけた神経質そうな顔立ちには見覚えがありません。会ったこともない人でした。


『あなたは誰ですか? 大きい猫さんは何処に行ったの?』、そう聞きたいのに声が出てきません。知らない男の人が怖くて…私は植え込みの影から出て行けなかったのです…。


「もう…大きい猫さんには会えないのかな…」

 私は大きい猫さんの優しい手を思い出して、胸が痛くなりました。そして小さい猫さんを抱きしめて、その晩は泣きながら眠りにつきました。



◇◇◇



 その次の週の日曜日。降り出した夕立は雨は酷くないものの、ゴロゴロという雷の音が激しく響いていました。雷に驚いたのか、小さな猫さんは耳をピクピクさせています。

 私が部屋の窓を開けて空を見上げた時でした、小さな猫さんが窓の隙間から外へ飛び出し猛然と走り出したのです。


「待って!行かないで…」

 私は慌てて靴を履いて玄関から外へ飛び出しました。ですが小さな猫さんの姿は何処にも見当たりません。


 項垂れて肩を落とした私に、夕立の雨が殴るように雨粒を落とし始めます。すると、背後から誰かが私に傘を差し出してくれました。

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