第5話

 その日はよく晴れていたにも関わらず、5時間目の算数の時間に激しい夕立が起こりました。

 私は何だかとても嫌な予感がして、雨の中を水溜りの通学路を猛スピードで走って帰りました。


 学校から帰宅すると大きい猫さんがアパートの部屋からいなくなっていました。私は雨に濡れるのも構わずに、庭に飛び出して猫さんを探しました。小さい猫さんも一緒に大きな猫さんを探してくれています。


 すると、突然背後から大家のおばさんに声をかけられました。


「あんなのと一緒に暮らしてるなんて危険だから、通報してあげたわよ!」

「保健所に通報するなんて酷いです! 大きい猫さんは何も悪いことしてないのに!?」

 私が食って掛かると大家のおばさんは怪訝そうな顔になりました。


「はぁ!? 通報したのは警察よ! 何言ってるのこの子…頭おかしいんじゃないの!?」

 大家のおばさんはプンプンと怒った顔で踵を返すと、そのまま歩き去ってしまいました。


 やっぱり夕立は嫌いです。また私の大切な物を奪っていきました…。


「大きい猫さんを返してよ…」

 私は雨に濡れるのも構わずに大声で泣きました。立っている気力もなくなり足元の水たまりにへたり込むと、激しい雨粒が顔に当たり口の中にも入ってきました。


「お父さんもお母さんも弟も、もう戻ってこなくてもかまいません…、でもお願いです、大きい猫さんだけは返してください…」

 私は夕立に向かって祈りました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る