1-5

 静まり返ったアシード基地の一角に、P.O.C.Uの国旗が掛けられた多くの棺が置かれていた。

 開戦劈頭の大規模なACW戦で命を散らした兵士達の遺体である。

 縁のあった者達が眠っている仲間のもとへ訪れて、静かに冥福を祈っていた。

 そこに、一人の女性士官が入口から歩いてくる。

 胸元には名誉勲章を提げていた。


『貴君の活躍に寄り、多くの友軍が敵性区域から離脱出来た。よって、ここにその功績を称え、名誉勲章を授けると共に、階級の引き上げを持ってP.O.C.Uの感謝を捧げる』


 女は無表情に敬礼を返し、それを受け取った。

 勲章を授与されたその足で、そのままの格好でここに来たのだ。

 五つの棺の前で歩みを止め、静かに見詰めていた。

 

 ――筋骨逞しい禿げ親父のヴィル。

 第一次ウィノア紛争から闘っていた、前線で一番頼りになる男。

 

 ――童顔で少女のようなアンジー。

 自分を姉のように慕っていた、可愛い妹分。

 

 ――勝気で溌溂としたヴィヴィアン。

 軍のまずい珈琲をうまそうに飲む姿が眩しかった。

 

 ――理屈屋でお調子者のケリー。

 常に隊のムードメーカーだった。

 

 ――そして、ケイ。

 いつも、いつも冷静で、リーダーの素質が自分よりもあった。


『俺はお前のサポート役だ』


 そう言って、リーダーの席を譲り受けた。

 

「……ばかやろう」

 

 女は小さく呟くと、名誉勲章と階級章を強引に引きちぎって床に叩き付けた。

 

 ――なにが名誉だ。

 

 仲間の死と引き換えにこれを得た……。

 こんなもので、仲間が帰ってくるのか……。

 やり場の無い怒りが込み上げてくるが、それはどうしようもないものだった。

 女はポケットから五つの認識票を取り出し、自分の首に付けた。

 二度とこんな目に合いたくない。

 仲間なんていらない。

 

 ――ヴァルキリー隊は、おまえたちだけで充分なんだ。

 

 涙なんて出るはずない。

 悲しさなど微塵もなく、ただ自分が憎くて仕方がない。

 

 やがて、女は棺の前で敬礼し、踵を返す。

 その背中は、激しい後悔を背負いながら、仲間を後にして行った。

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