1-3
ヴィヴィアンがコントロールパネルから女の機体反応を拾おうとする。
「通信途絶、だが悠長に探してられないぜ!」
ケリーが叫ぶ。
「ちっ、敵さん、もう態勢を立て直しやがったか」
ヴィルはモニターに映る敵機が自分達を包囲しようと動いているのが見えた。
「アンジー、ロケット弾は残ってるか?」
「さっきので全弾使い切ったよ!」
「オーケー、じゃあ俺の援護だ。ヴィヴィアンも消えたボスより援護に回れ。ケリーは引き続きボスを追い、何かあったらすぐ知らせろ。ケイ! 追いついてこれるか?」
女の代わりに威厳を保ってヴァルキリー隊をまとめにかかるヴィルだが、表情は険しい。
機体レーダーにはこちらの倍はいるN.O.A.S機の反応があるのだ。
「もうすぐだ。朗報の持ってそっちに合流する」
「朗報ってなに?」
アンジーが無邪気に聞く。
「撤退中の友軍と擦れ違った。民間人も無事だ」
「まあ、朗報と言えば朗報だけど……」
明らかにがっかりした口調で呟くアンジーに、ヴィルが高らかに笑いながら言い放った。
「おいおい、俺達はこの為に来たんだぜ? 任務成功じゃあないか!」
狭いコックピットで大声で笑い叫ぶヴィルに、後衛の面々は盛大に溜息をつく。
「その後が問題なのよ」
ヴィヴィアンが頭痛を堪えるように額に手をやる。
「分かってたとはいえ、こうも敵に包囲されちゃあ……、萎えるぜ」
ケリーのほうは胸元で十字を切った。
「ボスが指揮機を仕留めるまでの辛抱だ。各機、ケリーを中心に方陣を組め」
ヴィルは建物から飛び出してきた敵機にショットガンを続け様に放つ。
こういう防御戦にもっとも不向きな武器だが仕方ない。
レーダー画面を見れば、敵ミサイラーからのロックオンが表示されている。
うまくビル群を遮蔽物に直撃は避けるが、包囲の輪が縮まればそれも出来なくなる。
「あんたにとっては機動戦のほうが楽だよな」
ケイから通信にヴィルは肩を竦めた。
「ACW自体に防御戦闘なんて向かないさ。こういう時は戦車だな」
ようやく市内の交差点、崩れた建物や自動車で築かれたバリケードのある地点でヴィヴィアンとアンジーに合流する。
だが、それは同時に、十字砲火の危険があることを指し示していた。
「うわぁ、禿親父と一緒になっても嬉しくない」
アンジーの容赦ない一言に、流石のヴィルも眉根を寄せる。
「いくら俺が鋼の精神を持ってても傷付くぞおそれは……」
禿親父と童顔少女の年齢差は実に父娘レベルだ。
ちょっぴり気の毒どころか、大いに同情を誘うものだろう。
「違うって! そういう意味じゃなくて、N.O.A.S軍も一緒ってところだよ」
「それくらいヴィルも分かってるわよ。貴女をからかってるだけ」
ヴィヴィアンがわざわざ注釈を添える。
「……こんな時の冗談は冗談って言えなくない?」
唇を尖らせるアンジーに、遅れて合流したケリーが小さく笑った。
「禿親父の悪ふざけはいつものことだろ?」
「いっそのこと、ヴィルを残して撤退するのもいいんじゃないかしら?」
今度はヴィルが冗談の的になっているのだが、その間にも敵ACWが迂闊にも姿を現した瞬間を、ヴァルキリー隊は見逃さない。
4機からの集中砲火にたちまち鉄屑となった。
「お前らなあ。それこそボスが敵をぶっ飛ばして帰還する時に退路がなかったら、ボスは俺達を攻撃してくるぜ」
段々と敵砲火の激しさが増す中でも、遮蔽物をうまく利用して反撃し、軽口をやめない。
「うわ、姉御ならやりかねない」
「退路がないのにどうやって俺達を攻撃するんだか」
アンジーが嫌そうな顔をすれば、ケリーが素直な疑問を口に出す。
「馬鹿ね。隊長の行動に矛盾は通じないわ」
ヴィヴィアンが放った直接照準による追尾ミサイルは器用に建物を躱し、敵機目前で上空へと飛翔、すぐさま垂直落下して敵に命中させた。
「やっと2機か」
アンジーの無意識な呟きに、ヴァルキリー隊の面々は焦燥の色を隠せない。
未だ女と通信が途絶している状況だ。
敵指揮官機を撃破するのが先か、弾が尽きるの先か――
「1機追加してくれ」
ケイからの通信が入る。
どうやら退路を守るケイも敵ACWを撃破したみたいだ。
「怖いね~、毎分6000発の高速徹甲弾で貫かれたら、挽肉だよな」
身震いするかのようにケリーはレーダー画面で敵機が消えるのを確認した。
それでもN.O.A.S軍の包囲は完成しつつある。
本格的に包囲されたら、そこから敵の怒濤の反撃が始まるのだ。
ヴァルキリー隊各機はその予感を肌で感じていた。
「ケイもこっちきて援護してほしいな」
「馬鹿言わないの。退路を守るケイがいなくなったらそれこそおいしい珈琲が飲めなくなる」
「基地のコーヒーがうまいなんて言えるの、おめえだけだぞ?」
もはや砲火に切れ間がない。
濃密になる火線に晒されても、アンジーはそれでも冗談を言い、ヴィヴィアンは突っ込みになってない突っ込みを入れ、ヴィルは軽口を叩く。
「あー、みんな、ちょっと聞いてくれ」
そこへ、ケリーも冗談の輪に加わろうかと言わんばかりに口を挟んだ。
「なに? いい話ならいっぱい聞きたいけど」
アンジーはまったく期待していない調子で答える。
「ちょっと悪い話と、更に悪い話だ」
「拝聴しようか」
ヴィルが遮蔽物から機体を晒してショットガンを放つが、それ以上の弾丸が襲いかかり、腕や胴体に被弾した。
「レーダー妨害著しいから試しにセンサーを
一端、言葉を切ったケリーの額はじっとりと汗を滲ませる。
「相手にECMを搭載したジャマー機が複数いた」
「……別にジャマーくらい珍しくないでしょ?」
ヴィヴィアンは返答しながらも、喉が異様に乾いていくのを感じた。
「レーダーや通信機の妨害もジャマーの存在で納得ってだけだよね?」
アンジーの背中はただならぬ悪寒に震え出す。
「敵は大隊規模、じゃなかったことか?」
ヴィルは鋭い眼光でケリーの顔が映るモニターを睨んだ。
「一瞬だけ映った機影を分析した結果、三個大隊規模と判明」
その途端、各機のコックピットにアラームが鳴り響いた。
「じゃあ、当初の三倍ってこと!?」
ロックオンされた状況に対してアンジーはACWの腕を交差させ、ミサイル防御の姿勢に移した。
「問題は数じゃねえ!」
ヴィルも被弾した面を極力遮蔽物に隠す。
「それだけの規模なら、砲兵火力が充実しているってことね」
ヴィヴィアンがメインカメラを上空に向け、拡大映像をモニタリングする。
そこには白煙を走らせる飛翔体が何十個も確認出来た。
「ミサイル、ロケット弾、砲弾のオンパレードってやつだよ!!」
ケリーの叫びの後、交差点のバリケード共々、鋼鉄の旋風がヴァルキリー隊を襲った。
それこそ、指揮官機に突貫する女のヴァンツァーにも反応が拾えるほどの火力だった。
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