1-2
機体限界速度ぎりぎりで疾走し、ようやく有視界に退避中の車列を捉えた。
崩れた建物を縫って進み、南西へと脱出を図る車列に近付く。
「対岸はまだ味方の勢力圏内だ! 急いで川まで退避しろ!」
女が拡声器で呼びかけると、ドライバーや搭乗している兵士達が喝采を上げた。
「おお、神様! 天は俺達を見捨てなかった」
「味方のACWか! とっととN.O.A.Sのクソッタレ共をぶち殺してくれ!」
「脱出したらレディに一杯奢らせてくれよ!」
「戦場の女神様とは、まさしくアンタのことだったのか!」
それこそ蜂の巣を突いた程の大騒ぎとなった。
こちら目掛けて大きく手を振っている兵士もいれば、あろうことか投げキッスまで送ってくる糞馬鹿野郎までいる。
「……なんだ? ……まさか、わたしが女だからか?」
溜息交じりに呟いた女だ。
ACWの拡声器から女の声が流れたらこの有様である。
が、女は苦笑をしながら、無理もないと思った。
P.O.C.U軍のセントラル防衛線は崩壊し、ほとんどは壊滅状態で敗走している。
開戦時の前線構築中に、背後のセントラル市街では大規模なACW戦が繰り広げられていた。
目の前の車列にいる兵士達はその中を生き残って脱出してきたのである。
敵にいつ包囲殲滅されるか分からない重圧は想像以上のものだったのだろう。
絶望下で友軍の助けがくれば、誰しも歓喜を上げるものだ。
「こちらはヴァルキリー隊だ。退避中の部隊行動を指揮している者はいるか?」
女が通信機に問いかけると、程なくして応答が返ってきた。
「ヴァルキリー隊へ、援護感謝します! この車列は壊滅した部隊の混成隊です! 母体はP.O.C.U.陸防軍第一軍戦車師団戦車中隊ウォンバットであり、自分はそれに所属しているビーンであります!」
音声に混じって激しい射撃音が流れる。
「貴殿らの状況は?」
「現在、車列最後尾の装甲車を運転中であります! すぐそこまで追撃しているN.O.A.S軍に追いつかれそうです!」
モニターを拡大させれば、車列最後尾から断続的なマズルフラッシュが光る。
「もう貴殿らを捉えている。ところで旋回機銃はACWに有効なのか?」
「12.7mmでも装甲の薄い部分を狙えば有効だが、いかんせ悠長に撃っていられなくてね。ここから脱出できたら必ず奴等の頭上にクラスター爆弾をお見舞いしてやる」
通信機はビーン以外の人間の声を流す。
「爆弾、とは貴君は空防軍の者か?」
「空防軍実略部攻撃戦術航空団ブルーバード所属のノンだ。今は撃墜されてこの装甲車機銃射手をやってる身分だけど、ね!」
再び乾いた射撃音が通信機から流れる。
「残った味方は貴君らですべてか?」
「P.O.C.U軍残存兵力は市中心部で孤立、徹底抗戦をしている一部を残して、自分等が最後であります!」
女の問いかけに応えたのは操縦者のビーンだ。
「了解した。撤退を援護する。そのまま南東方向に全力で離脱しろ。背後のいるN.O.A.Sの犬はわたしが躾けてやる!」
最後の加速と言わんばかりに女の機体が震え、アスファルトを削る地響きが風の如く装甲車を通過していく。
「な、なんだ!?」
余りにも常識外のスピードに、殿にいたワイルドグース隊のエドガーは呆気に取られた。
同様に一瞬、射撃を止めてしまったドラグーン隊のACWだ。
「ケリー! 戦術データリンクを確立、ヴィヴィアンはわたしの眼前200m広角90度にロケット掃射、アンジーは機体レーダーに捉えた敵機にミサイルだ!」
早口に吠えた女は殿のワイルドグースとドラグーンを抜き去り、道路に燻っている車両を飛び越えた。
その先にいるのは――
N.O.A.Sの
「ヴァルキリー全機、殴りこむぞ!」
再び吠えた女は、漆黒の機体を突撃させた。
これに度肝を抜かれたのはN.O.A.S軍のパイロット達だ。
追撃戦は彼等にとって楽なもので、敗走するP.O.C.U機を七面鳥狩りのように撃ち取るだけの簡単な仕事だった。
ここまで来るのに孤立していたP.O.C.U軍ACWを何機も撃破していたのだ。
「な!? 馬鹿かコイツ――」
ところが、馬鹿正直に正面から突っ込んでくるACWがいた。
引きつる顔のN.O.A.S軍パイロットだったが、的が勝手に銃口に向かってくるのだから撃つだけでいいはずだった。
うすら笑いを浮かべ、その漆黒のACWに発砲する直前。
「!?」
凄まじい砲撃がN.O.A.S軍機に降りかかった。
着弾の激震と舞い上がる粉塵で視界は完全に奪われる。
直撃はなかったものの、その衝撃にモニター画面がちらつき、通信障害も発生した。
そして、気付いた頃には遅かった。
爆煙から漆黒の機体が躍り出る。
速度の乗ったACW格闘戦用ナックルがN.O.A.S機に炸裂した。
まるで砲弾が直撃したかのような衝撃にACWは吹き飛び、ビルに激突する。
唖然とそれを見ていた僚機のACW機は、我に返り銃口を女の機体に向けるが、その瞬間にミサイル警告がコックピットに響き、回避する間もなく爆散した。
「はっはぁ、ボスが突破した!」
なんとか追従してきたヴィルは女の機体が走り去っていくのを確認する。
それに釣られたN.O.A.S機に対し、ヴィルは両手に装備してショットガンで粉砕。
見事な
「待って、それ喜ばしいことじゃない。データリンクから隊長の反応が消えたわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます