政治家の反発

(なによ! 国の実情も知らないくせに)

 その物を睨んでみても、言いたい事を言って退いていくのだから困ったものだ。

 ユーリーが茫然としてその場に座っていると派手に着飾った王太后に肩を叩かれた。

「お待ちなさい。あなたにお話がありますわ。きなさい」

 有無を言わせず導かれるままに行き着いたのが王太后の自室だった。

「掛けなさい」

 王太后は険しい顔のまま、椅子に座るようにユーリーを促した。言われた通りに腰かけると王太后はしばし沈黙してしまった。

「話したいこととは何でございましょうか?」

 堪り兼ねたユーリーがそう聞けば王太后は重い口を開いた。

「落ち着きなさい。もうすぐ息子がきますから」

 またそれきり沈黙してしまったのでユーリーは落ち着かなく辺りを見回していたが、三回目に部屋を見回した時、厳かな扉が開いた。

「遅くなりました。ママ」

 国王の口にした言葉にユーリーは内心でギョッとする。

(マ、ママ……聞き間違いよね。成人した男性がそんなこと言うわけない)

 そうとは知らずに三人で椅子に腰かけ、会談するという形が出来てしまった。

「……息子より話がありましたわ。あなた以外の女を妻に娶るつもりはない。国をかけてもいいとまで」

 さすがにその話にユーリーは度肝を抜かれた。

「陛下がそんなことを?」

「ええ。財が欲しいならそれなりの金を積む。生活も約束する。だから皇后は自分で決めると。わたくしが望んでいない的外れなことを約束してくださいました」

「しかし、わたしは后になりたいとは思いません」

 王太后は聞こえよしがにため息をついた。

「わたくしとて考えている后候補がいたのです」

「朕は受けない。いいでしょ? ママ」

 国王は甘える駄々っ子のように疑問形できいている。年取った王太后は難しい顔をしつつも首肯した。

「は、はぁ。そうだったのですか」

 引き攣った愛想笑いをしているが王太后はちらりとユーリーを睨んでから話を再開する。

「それをことごとく退けてまであなたをと」

「わたしはただ、陛下に行っていただきたかったのです。自分が地位につくなど」

 言い募りかけるも王太后はピシャッと断言した。

「お黙りなさい。――自信を持ち、責任を負いなさい。それが嘆願書まで作った者の責務というもの。皇后たる役目も、責任もすべてあなたに譲りましょう」

 それはあまりに重い信頼だった。

「あなたにならばできるでしょう。あのような下賤な民の声を聞けるのだから」

「……考えさせて下さい。一度、城下に戻らせて戴きたいのです。レンと……会いたい人がいます」

「いいでしょう。ただし、左程の猶予はありません。結論は速やかに出してもらわねば」

 部屋を退出して急いで外への階段を探そうとした時に依頼屋に遭った。

 彼女はその美貌にとてもにあう薄紅のマントをはおり、高位の女にはおよそ相応しくないであろうズボンをはいていた。

「退いて。外へ出たいの」

 柱に寄り掛かっている依頼やたる彼女はフッと笑った。

「あんたさぁ迷ってるって顔してるけど嘘だろ?心の底ではそれしか道がないことを分かってる」

「まだ道はあるはずよ。私に道を示したのはアマリリスだもの。なんとか」

「甘いわ。多分、真っ先にこの世を去るのはあの妖精よ。もう時間がないの。この先頼ることは出来ない」

 彼女は吐き捨てるように言った。

「なんでわかるのよ」

「妖精が言ってたはずだ。命の水を飲まなかったら十年と持たないって。彼女が最後に水を飲んだのは何時だと思ってんだよ?」

「それは……聞いてない。けどまだ」

「まぁ。推測だけどね。もう一年とないんじゃねーの? あんたの前では強がって笑ってたけど気を抜くと姿が消えかけてしさ」

「そんなわけないわ。なんであんたなんかに断言されなくてはならないのよ」

「行ってみると良いわ。その眼で確かめれば納得すんでしょ!」

 依頼屋が示したのは中庭に停車する馬車だった。ユーリーは機会を逃さないために王宮ということを忘れて走った。

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