嘆願、ふまえた政策

 ✝ ✝ ✝


 アールエール国の指針を決める朝議は久しぶりに開かれた。居並んだ十数の臣下の代表のように王太后と思われる女性がまえに進み出て問うた。

「オムガッチム・サンドリー皇帝陛下。今日の朝議には見慣れぬ者がおりますが罪人でしょうか?」

 威圧感のあるピンと背筋を伸ばしている姿は凛々しく、年齢を感じさせるのは顔や首の皺だ。それを隠すために厚く塗られた化粧のせいで煩い姑と言った雰囲気が出ている。

「いいや。そなたに代わって新しく政治に参画してくれるものだ。朕の隣にずっといてくれる女ということだ」

 ユーリーはその言い方にぎょっとして頭を下げていたが顔をあげた。

「陛下恐れながらそれは」

 諌めようとしたユーリーに王太后の鋭い視線が刺さる。まるで、この場での発言をするなと言わんばかりに――

 しかし、それは一瞬のこと。

 臣下に対してか、陛下に対してかすぐに笑顔になり、穏やかなこえで確認する。

「陛下、それはこの方を妃に迎えるということでよろしいのですか?」

 陛下は首を縦に振り肯定した。

「よく決断なされました。亡くなったお父様にもこれで安心なさったことでしょう」

「ああ。だが、妃になるにはいくつか条件があるとのことでな。朕はそれを叶えようと思うのだ」

 数十人いる高官たちが騒ついた。陛下は気にせずに三つのことを話した。一層ざわつきは大きくなり身分のひくい管理はさえずりをしている。

「なんと怖れ多いことだ」

「聞いた話では下級貴族らしいですぞ。下賤なものの発想は判りませんな」

 なおも囁かれるが陛下は気にした様子もなく戦場で話した三つのことを話した。

「そんな綺麗事を王太后が承諾するはずはありませんな」

「ですな。とんでもない提案だ。不正の数々は王太后の支持が多いのだから」

 皆の囁きに対して王太后の反応は臣下の予想を裏切った。

「解りました。そんな世界になるように努力してみるのもよろしいでしょう」

 了承でこの場の雰囲気はユーリーの妃で確実となってしまった。そんな雰囲気となってしまっては困るユーリーは立ち上がった。

「あの。王太后様?それも言いましたが、しかしながら」

 今度こそ意義を唱えようと思ったのに王太后は何を考えているのか、話を振ってきた。

「民からの嘆願書がおありでしょう。はっきりとこの場で示したほうがよろしいのではなかろうか?ユーリー殿」

「は、はい。ございますが」

「それをこちらに」

 ユーリーが困惑している間に貯めていた嘆願書も取られ、朝議はお開きになった。

「なんと罰当たりなことよ」

「愚かものが」

 それまでさえずっていた高官たちが退出ざまにはっきりと侮蔑の言葉を投げてきた。

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