神の行方と人間たち

 ✝ ✝ ✝


 そうしてユーリー達を王都へ届けて、全能の神は去っていった。

「聞き忘れたんだけど全能の神は何所へいったの?」

「元の封じられていた場所に行ってみるんだってさ。眠れるかどうかわからないけどね」

「行っちまったな。マリも一緒に」

 レンは名残惜しそうに神の去った方角を見つめていた。

「そうね。アマリリスは本当にいいの?妖精界があるんでしょ?」

 アマリリスは緑色の瞳をきりりと引き締めてさらりと暴露した。

「ああ。妖精界はユーリーを探してる途中に疫病に合ってね。殲滅したの」

 一拍置いたのちに人間たちは驚く。

「は? 疫病で殲滅ってどうしてよ?」


「妖精は命の泉の水で生きているの。

 その水が何らかの原因で汚染されてしまったの」


 アマリリスは無理に笑っているように見えた。


「私が最後の生き残りよ。だから何処で、何をしようが自由だわ。仕事だって一人で何が出来るの? 見守ることに飽きたのよ」

「行くところがない事はわかったけど」


「だからね、一緒に生きるわ。実は妖精の泉がなかったら十年と持たないの。人間でいうなら老婆の生活を見てくれるでしょう?」

「この間失ったものをさらっというのよ!」


「なんて顔してるのよ。何百年も生きているんだもの。別れも喪失も良くある事よ。さすがに好いてる人を亡くしたのはキツかったけど」


 さぞ愛しそうにそっと呟いたものだから無粋とは思ったが、疑問口に出してみた。

「アマリリス、恋人がいたの?」

「いいえ。でも色んな所で色々な仕事したもの。年下の仲間が先に逝くと思わなかったわ」

 ユーリーは最初に合った時の思い詰めた様なアマリリスの表情の意味がやっとわかった。

「さてと、陛下が城下に住居を作ってくれたわ。しばらくそこに住みましょう」

「俺も住んでいいか? 三カ月も失踪していたんだから主様に今更合わす顔なんてないんだよ」

「仕方ないわね。いいわ!皆で暮らしましょう」

 アマリリスはうな垂れていつもよりもさらに小さく感じた。


 ✝ ✝ ✝


 神に宮殿のうら門まで送ってもらい、依頼屋と王はきりりとした表情となった。

「さて陛下、うちの言う通りにしてくださいね」

「あ、ああ」


 困惑する皇帝を引連れて向かった先は執務室だ。部屋の扉は金箔を使い、艶やかに飾られていた。躊躇せずにサイは軽くノックした。


「宰相、入るぞ」

 返事を聞くことなく扉を開いた。

「陛下。どうなされたのです?依頼屋殿をつれて」

 平伏する宰相に陛下は言った。

「宰相、訊いた話だがそなた、随分と羽振りがいいそうだな」

「め、滅相もございません。その様なことは決して」


 宰相は顔色を土気色にしてボソボソ弁解する。

「その理由は、国庫の助成金を懐に入れていたからでしょう」

 スパリと依頼屋が言い切ると、

 言い逃れるためにか悲劇の主人公のように饒舌になる。


「なんということだ。陛下は依頼屋殿の策略を真に受けるのですか」

「ほう。面白いな。実は部下からも同様の証言をしていてな。そなたの押印もあるのだ。本当ならば退官が筋だが――救いの手がないわけでもないな」

「陛下まで脅迫まがいをなさるのですか?」

「わが嫁を迎えるためだ。王太后を納得させる。協力しろ」

 宰相はしぶしぶ合意したのだった。


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