皇帝の苦悩

 陛下はため息をついた。

「おまえの望むのは結局、何なのだ?」

「ひとつは綺麗な風景。二つは争いの無い歴史。三つは民思いの国王」

 パッと国王の顔が明るくなった。


「それがかなえば私の元へきてくれるのか?」

「確約はできかねますが、それが最低の条件ですわ」

「わかった。努力しよう」

『希望の少女よ。望みが通ってよかったな』

 ユーリーはこの声は聞きたくなかった。頭の中に木霊するようなこの声の主を見ることがこわいから。でも顔を上げれば視線が合った。


「全能の神」

「そんな憎々しげによばなくてよいぞ。私は前とは違うのじゃからな」

「前とは違うってどういうこと?」

 皇帝が違和感に気がついた。

「前とくらべて口調が……昔の言葉になっている感じがするが」

「其の通りなのだな。今回ばかりは女神たちの性格が濃く出たらしくてな。

 人間が好きになったし、穏やかになったのじゃ」

 にこりと全能の神は満面の笑みを浮かべた。

 その笑顔がユーリーには暖かく感じた。


「え、じゃあもしかして」

「ああ私の中にマリもフローラもアイリーもいる。我らは起きている時間が長かったのだと思う。だからもう一度眠ろうと思うのじゃな」


 勝手に封じられて勝手に力を震わざるをえない状況に

 長年いた三つの神は人間の望みに付き合うことに疲れたのだろう。


「そんな。朕との約束は」

「そんなことをしていたの?」

「ああ。我らがそなたの政治に係るというものだがな、我はもう全能ではない。ゆえに約束は守れない」

「そ、そんな」

「この国を自分で作れということね」

 王は急に真面目な顔になりいった。

「ユーリー。残念だが王宮にはその嘆願書を持って入ることはできぬ」

「なんで?」

「どうせ、王太后様に荷物を点検されるのよね」

 いつの間にか意識を取り戻した依頼屋が頭を抱えつつも発言した。

「サイ。そうか。そなたの脅迫、いや計略で何とかできぬか?」


「私一人で王太后様をどうこうするのは無理ですよ。

 でも息子である陛下が協力して下されば、半年以内には大人しくなりましょう」


『では人間たちに最後の褒美じゃ。王とまで送り届けよう。レンを起こしてくれ』

「レン、おきて」

 アマリリスが呼びかけるもレンは起きない。見かねたユーリーが彼の腹を蹴った。

 彼はグエッと変な悲鳴を上げて起き上った。せき込む彼をそのままにユーリーは神に尋ねた。


「アマリリスはどうなるの?」

「そなたといると楽しいそうだ。ゆえにそなたが嫌でない限りいるだろう。時がある限り」

「アマリリス、どうか私のそばにいて」

 首を傾げ返答に窮している妖精に対して、けられた腹をさすりながらもレンは問うた。

「そうだぜ。ああ見えてユーリーは寂しがり屋だからなっ」

 ユーリーは彼の脛を蹴った。

「ってえ。何度も何度もけりやがって」

「解ったわ。追っていってやろうじゃない」

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