神様の過去

✝ ✝ ✝

(神々が丸くなって、談笑しているのか?)

「なぜ、私は信仰されなかったのか」

「私同様、この国に必要のない分野だからでしょ」

「そうよ。誰が昆虫の守護者と霊の神様に祈るのよ?」

「あんたには言われたくないわね。雨の神様だからって」

「そうだ。お前など」

「吾はそんな事思わぬ。人間のように浅ましい思いをしてどうするんだね?」

 集まっていた沢山の霊やら、神やら、守護者やら、が騒ぎだした。ざわめきは次第に大きくなり、ある結論に達する。

「皆が融合すれば霧と水の信仰と並べるのではないか」

 その中で一番力があった雨の神を中心に互いを受け入れた。意志が強い者が我先にと吸収という名の殺し合いを始めた。そして、何事にも万能な神が産まれた。

 一番濃くでた性格はやはり雨の神だろう。高飛車なその他の神々と雨の神の冷静すぎる性格は知的で有能な全能の神として名を馳せることになる。記憶の隅に、誰かの叫び声が児玉した。

 全能の神のことを理解した時、強い光を感じた。


 ✝ ✝ ✝


「何故、私が殺されなければならないの?」

「俺が何をしたんだ。疫病にかかっただけで家族に殺されるなんて」

「なんで? あの人に会って愛を誓っただけなのに奥方に刺し殺された」

(これは、マリの体から感じた憎しみなのか)

 その中で一際声高に叫んでいる少女がいる。

「許さない、半分しか血がつながっていない女を何故、姉と呼ばなければならないの?一人成功している憎い依頼屋!」

(あれは、まさかマリ? だとしたらマリの恨みはユーリーではなく依頼屋へむけられたものじゃというのか?)

 答えにたどり着いたときズキンと、ひときわ酷い目眩がした。あまりの酩酊感に目を瞑る。

 意識の融合が完成した瞬間だった。


✝ ✝ ✝


「ね、ねえ、まだ目が覚めないの?」

「もうそろそろ目が覚めてもいい頃なんだけどな」

ユーリーとレンが呟いた時、依頼屋の少女の睫毛が震え、ついで、ゆっくりと目を開いた。

「此処は……」

「フローラ様の結界の中よ」

「あんたは――ここが敵陣だなんて!何故殺さない!」

あどけない少女からすぐさま依頼屋としての顔を取り戻した女にアマリリスはげんなりしていった。

「あんた、何がしたいの?」

「妖精ごときがなんの用よ」

釣り上った目許といい妖精ごときと言う偉そうな態度といい姉妹と思わせるような容姿と言動を持っている。

「あんたが殺せというならそこらへんで自殺デモすればいいでしょ?そしたら私は止めない。敵に捕まったことが嫌だって言うあんたのプライドが許さないなら……」

「そんなことは思っていないわ。私だって生きたいわよ。どんな形だろうと」

レンが冷たく言い放った。

「マリを殺した分際でそんな事いえんだ?」

「言っとくけどマリは仕事の過程で邪魔になっただけで本来の標的はあなただったのよ。予言で国を背負わされたお嬢さん」

「私が何だっていうのよ」

「私は王様から依頼を受けてねえ。俺の邪魔になりそうだから早々に消したいって」

王様のことを隠したのはただ単に癪だったから。

「馬鹿なことよ。フローラ様たちもついているし王なんかには負けないんだから」

「どうかしらね。全能の神様は対決には慣れてる感じだったし、案外あっさりと決まるんじゃないの」

ブチリと紐が切れる音がした。依頼屋サイは音がした方向を向き、みるみるうちに青さめた。

「皇帝、陛下」

木に縛られていたはずの男がサーベルの刃をこちらに向けて立っていた。青い瞳に怒気を宿らせて、言葉を発する。

「どういうことだ! サイ。依頼屋の家系は裏切りは嫌いなんじゃなかったのか?」

「そ、それは、ですね」

「朕が剣術を得意とすることは分かっているだろう」

王は珍しく青筋を立てて怒りが噴出していた。

依頼屋は冷や汗をかきながらお世辞を口にする。

「ええ。それはもう。王宮内で勝てるものはおりませんもの」

「希望の少女以外邪魔だ。おい朕に嗅がせた瓶をよこせ」

依頼屋の喉に切っ先をむけて要求を突きつけた。

「しかたありません。こちらですわ」

男は栓をとり依頼屋、レンとアマリリスの口元に宛がった。

「ちょっと。なにするの?」

慌てて瓶を払ったものの意識があるのは二人だけになってしまった。



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