心の中での葛藤
✝ ✝ ✝
レンは耳鳴りの音で我に返った。
「此処はどこなんだ? 暗いし寒いし」
「ここはあんたの心の中。
希望の少女に対しての罪悪感でお前は自分を失うのであろうな」
「誰が、むざむざと罠にかかるものか」
「どうかね? あんたが金になる市場を教えたのがキッカケだろう。お前の行動はすべて裏目にでているんだよ」
「なんだと? それはないぜ」
「どうかしらよく思い出してみてよ」
実際にそうだったのではないか。
レンの行動はユーリーを傷つけることしか出来なかった。
それでも、確かなことはユーリーはレンを怨んではいない。
むしろ感謝の念をこめていることは間違いなかった。
「あちらをご覧あれ。あの黒い瘴気があんたの善意の成れの果てさ」
依頼屋が指し示した先には黒い霧のようなものがある。
ワンと鳴り響く言葉は――
「それ見るがいいわ。俺を見てくれと叫んでいるわね。あんたの汚い欲望をあらわして」
「俺は――」
聞こえてきた音がある。
《レ……レンおきて! お願い起きてよ! レン――のために》
「おや、あの小娘はまだお前のことを信じているようだが……
男のほうがもう終りだろうな」
サイの言う通りレンの目はもう敵であるはずのサイを映してはいない。
「口ほどにもない。お前などすぐに消されてしまえばよかったのだ」
《良く聞いて。マリからの手紙だよ「大好きだよ。レンあなたのことが……」って書いてある》
空ろだったレンの瞳に感情と理性が戻ってきた。
「な、何なんだ。マリの伝言だと。この男、まさかマリのことが」
この術を破る方法とは当人が一番望んでいることをいってやること。
「ユーリー、俺はマリを」
《マリの言葉知りたいんでしょ。早く戻ってきなさいよ》
「小娘の分際で、わたくしの術を解くのか?」
醜い罵りを聞きながらレンは体の力が急激に抜けていくのを感じた。レンには薄れゆく記憶の中で愛しい人が微笑む姿が見えていた。
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