神様の無事を祈る
✝ ✝ ✝
「フローラ様、アイリー様、どうか無事に」
ユーリーはそういったが、実現することはないと自分でも、
どこかで分かっている。
「神様の手を借りずに何とかしないとね」
「そうだな。いつまでも頼ってちゃいけないからな」
レンが呟いた時にあの黒髪の冷めた美女が話しかけてきた。
「その結界から出てくれない?そうすれば選ばせてあげるわよ」
敵陣では残ったのは陛下と依頼屋だけだった。
「どちらにするの? 戦うのか逃げているだけか」
「私が行けばいいわ」
「いや。俺が行くよ。ユーリーはアマリリスをみていてくれないか」
「……わかったわよ」
いつものレンの正確な判断にユーリーはうなずいた。
レンが結界を出た時には人影は減り、依頼屋だけだった。
彼女は腰まである長い髪をなびかせて、スレンダーな服を着ていた。
凄絶な美貌をもつ女は小瓶を小さな手の中で弄んでいた。
「なによ。キミ一人なわけ?私はお嬢さんに言ったのに」
「あんたが依頼屋って奴か?さっきまでは男がいたと思うんだが」
「その通りよ。陛下なら邪魔だから眠ってもらったわ。
アロマ・ハープの薬でね。
私が世間を騒がせている依頼屋・サイよ。
――それと、あなたたちには個人的に挨拶したかったのよ」
近寄りがたい雰囲気を纏う美女は勝ち誇った笑顔を見せた。
「挨拶だと?」
「そう。さっきまでいたマリの姉としてね」
時が止まるかというほどの冷ややかな静粛が流れた。
「じゃあ、自称マリの姉さんに聞きたいんだが、
マリが突然呪い殺されたんだが、何か知らないか?」
「面白いことをいうボウヤだねえ。知っているもなにも、
私が消したんだから死んでもらわなくては困るんだけど
……あの子は何で動いてたわけ?」
妖艶な唇から紡ぎだされた言葉はレンにとって氷の刃だった。
「――恐ろしいことだな。実の姉にマリは殺されたってのかよ」
「あらら。怒った? でもあんたに嘆く資格なんてないでしょう。
お嬢さんの父親を奴隷商人にしたのはあんたなんだから」
結界を張っていても声は聞こえることが運のつき、
ユーリーに今の一言は聞こえてしまったらしく蒼い顔をしている。
「なんのことだか分からないね」
「おやおや、そうかい。だが、希望の少女様は困惑して要るじゃないか。
可哀想に。もうだれも信じられないんじゃないのかい?」
結界を隔てていてもユーリーの唇はしっかりと疑問符を発した。
「レン、ドウシテ?」と
「違う! ユーリー」
結界の中ではしゃべるのも辛そうにアマリリスは囁く。
「ユーリー、今はレンを応援してっ、あげてっこれじゃ、
貴女が信じなくてはなにも始まらないのよ」
依頼屋サイは満面の笑みを称えて右手をふりあげた。
「ウフフ。落ちよ。幻術と魔術の世界に――」
彼女のたおやかな指にはまっている指輪がきらりと光った。
レンは依頼屋が何か仕掛けることは理解したが
回避する前に意識が混濁してその場に崩れ落ちた。
「ちょっと。レン!」
ユーリーが依頼屋と戦うために彼女のほうを見ると依頼屋もおなじように意識をなくして地面に倒れ伏していた。
「ユーリー。聞いて!レンが惑った時に必ず信じていれば戻ってこれるから」
「けど私が呼んだところでレンは」
「あなたが駄目だとしても信頼できる人から伝言だと言えばいい。
あなたが伝えてもおかしくないような人からだと」
そう言われユーリーの脳裏には今まで旅をしてきたマリしか浮かばなかった。
思い浮かべた彼女は優しく微笑み丁寧な言葉しか使わない。
いつだったか景色を見ていたときに頬を桜色に染め上げて頼んできたことがあった。
『これをレンに渡していただきたいのです』
あの言葉の意味は――
「きっとレンには恋人が一番だわ」
ユーリーは異変が起きるまでレンを抱えていることにした。
懐にある物を使わなくてはいけないだろうと思いながら
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