女のなれの果てと闘い
✝ ✝ ✝
風が吹いて移動したユーリー達は淋しい村の一郭にいた。
「大丈夫なのですか? アマリリスを置いてきて」
猛抗議をするユーリーにフローラは言う。
「落ち着くのじゃ。私は憎しみを感じたのだよ。隣村の廃墟から」
「どういうことだ! それにあんた等の体力だってもう持たないはず」
移動術は相当な体力を使うらしく、女神たちは少し揺らめいて、
疲れを見せながらも説明をしてくれる。
「強い憎しみは言いかえれば意志が強いということ。
どんなに歪んだ感情を持っていても、全能の神に混じらない可能性がある」
それを聞きユーリーは顔を歪めた。
「そんな! 確証はないじゃない!」
「仕方ないのじゃ。これしか方法がない」
受け入れられないユーリーに対してレンは気楽に廃村を眺めている。
「にしても酷いな。これは」
鼻に突く強烈な死臭といい廃れた村と言いまともな人間ならば
眼を覆いたくなる惨状だった。
遠くからフラフラしながら近寄ってくる人影がある。
「マ、マリ。マリじゃないか!」
「《憎い。呪ってやろうぞ》」
「マリ何言ってんだよ! 憎しみから離れろ!」
マリに駆け寄ろうとするレンを女神は呼び止めた。
「よさんか。もう、そやつはマリではないのじゃ」
「もうマリではない? だってコイツは」
「いや。マリではないとはすこし語弊があるな。多分数時間前まで本人の意志があったのじゃろう。だがここは死人の意志が混在する場所。
だから一人でふら付いていたマリの意志は飲まれたのじゃ」
「そんなことって」
「こんな何て呼んで良いか判らない状態のマリをどうする気だよ?」
「利用させてもらう」
「ちょ……駄目よ。マリは」
マリの体だったモノを抱えてウィンデーネは再び呪文を唱えた。
《ワレニシュクフクノヒカリヲ》
そしてアマリリスが待つ北東の街へ向かった。
✝ ✝ ✝
「やっと来たのね。妖精を置き去りにした癖に」
黒髪の女は冷静を通り越して冷たいくらいの声音で言った。
「改めまして久しぶりだね。女神たち」
冷めている依頼屋の次に発せられたセリフと声は優しい青年のようでこんな状況をでなかったら好感がもてそうだった。
「今度こそ取り込んであげるよ。三百年前の様にムザムザ取逃がしたりはしない。妖精にも飽きたところだしね」
いまの一言で良い印象はなくなった。
全能の神のすぐ近くにアマリリスが倒れ伏していた。
「アマリリス!」
ユーリーは飛び出したかったがレンがそれを止めた。
「冷静になれ。戦うことが先決だ」
女神たちを全能の神は優しい声音で呼びかける。
「来なさい。もう人間たちを巻き込みたくはないだろう?」
言われた通りに二神は前へ進み出た。
「フローラ! アイリー、ダメだって」
「行くな! 勝ち目はないだろ」
止める2人に女神たちはほほ笑んで見せた。
「大丈夫。勝算はある。だからこそ結界を作っていくのじゃ」
ロサンと呟き、ユーリー達を結界の中にいれた。
「勝つ為にマリを借りて行くぞ」
言い残し、強い風と共に消えてしまった。
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