神様の戦い
ようやく彼女はナイフを下ろした。
正確には途中で指の異変に気がついて固まってしまったのだが。
「これは……指輪が光っているというの?」
「そうだ。敵に会ったら思う存分に力が震えるぞ」
「そうなの。それは楽しみだわ」
「さぁ全能の神よ、朕達を連れて行ってくれ! 奴等のいる北東の郊外へ」
どこからか白い煙を纏った神がユラリと浮いていた。
「是」
暗い地下室を全能の神はまばゆい光を出して周囲を明るくさせた。
まぶしさが治まるとそこには人の気配はなかった。
✝ ✝ ✝
「ではこれより、移動術を始める。ユーリー,レン、円の中に入るんじゃ」
「はい」
《カナタヨリサダメラレタタマシイヨ、ワレラノネガイヲイマカナエン》
そして人間の視界は白銀の光に覆われた。
✝ ✝ ✝
貧しい土地に軽やかに降りたった人間たちは周囲を見渡した。
「このあたりに来るはずだ。待っていればじきにくるだろう」
先についたのは王と依頼屋だった。
「本当に合ってんのか? 郊外って他にも」
「いや、彼等は人目に付きたくはないはず。今までに最南端と最北端に移動していることや王都をから離れなくてはならない地理的な要因を含めるとこの村しかないはずだ」
全能の神が説明を終えた時何かが落ちる音がした。
「きゃぁぁ」
「いって。大丈夫か? ユーリー」
「はあ。巧くいったみたいね」
巧く逃げられたと信じて、笑顔で喜ぶ姿は敵からみれば滑稽だ。
一番早く気づいたのは女神ウィンデーネだった。
「待つのじゃ。この気配はもしや」
「その、もしや。だよ。水の女神ウィンデーネ、霧の女神アイリー」
「全能の女神じゃな。すまんがまだ行くところがあるのじゃ」
すぐさま呪文を唱え始めた。
「バカめ! このお方から逃れることはできないぞ!」
王が足もとに落ちていた木を拾い、女神めがけて投げつけたのだ。
それをアマリリスは手で払い落し、結界の外へ出た。
「女神様、お任せください。ユーリーをお願いいたします」
「しかし、そなたは触れることが」
ウィンデーネは心配そうに言うが王は正反対に興奮している様子だ。
「妖精如き、朕と全能の神の前には無力だ」
「なんで人間の男にみえているの? 予言が崩れているじゃない!」
混乱するユーリーに冷徹な声音が響く。
「皇帝の血筋の男は代々視る力があるのだよ、妖精君」
全能の神は、飄々とこちらの知らない情報を教えてくれた。
「だったらなおさら相手をしなくちゃね。行って下さい。勝つ為に」
「すまない。《ワレラノタメニサクリャクヲクワダテヨ》」
人間が目を開いて居られないほどの強風が吹きあれて希望の少女と呼ばれる人間たちは消えた。
「……一体どういうつもりだ? 妖精如きに朕や全能の神を止められるとでも思うたのか!」
「神を止めるなんて思いませんとも。でも時間稼ぎ位はやらなくてはならないわ」
「ならば試してみるがいい」
全能の神の言葉を皮切りにその場は戦場となった。
分かり切っていることだが、あっけなく勝負は付いた。
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