失意の中で昔話

「今度は速いわね。やっぱり神様にかかるとスムーズに進むのね」


 アマリリスが感嘆したのも無理はない。ユーリーたちが二ヶ月かけて進んできた道のりをたったの一日で追い越してしまったのだから。


 神が目覚めた以上、隠れるように移動することはない。目指すは王都、そして王宮へ――。移動二日目にはユーリーは目覚めた


「……あれ、マリは何処にいるの?」


「そうじゃ、ユーリー、悲しむかも知れんがを受けずにきいてほしい」


 フローラはマリが呪い殺されていたことを彼女に話した。


「マリが役目を失敗したから?私を殺せなかったからなの?」


『仕切りなおして、マリを使うことは難しいのでしょう。もしかしたら急いでいるのかも』


「なんでよ? 私は嘘でも、偽りでもマリに居てほしかったのに」


 アマリリスはユリのことを話したときと同じ、苦渋に満ちた顔をしていった。


『この組織とはそういうものなのよ。一度失敗したものにはもうチャンスがない。こういうところはあの頃と変わらないのね』


 アマリリスはかつてユーリーの前世の人であるオウカも親しい友人を旅の途中のなくしており、手口は今回とまったく同じときている。


「確か、ユリは三人で行動していて、――オウカ、マリア、ロンだったかのう」

 思い出すのも苦しそうなアマリリスに変わりフローラが当時のことを語り始める。


 オウカはマリアに裏切られ、昏睡状態に陥った。その間にマリアは呪殺された。

 あの時もこのままではいけないと言ってフローラが移動を促して、王都まで移動して――

「それからどうなったの?」


「それから、オウカは斬られたのじゃよ。その頃、はやっていたロング・ソードの間合いを見切れずに政府の手にかかったのじゃ」

 昔のこととはいえ、ユーリーは背筋が凍った。聞いていてそれなのだから、直接見たアマリリスの動揺にも頷ける。

「じゃあ、今は昔の通りの展開をしているのか。まるでなぞらえているようだわ」

 全てを聞き終えたユーリーはこう進言した。

「まさかとは思うけど、政府にユリさんの行動が洩れていたんじゃないの?」

「そんなことあるはずがない。だいたい信頼の置ける人物にしか話さないし、情報の管理など初歩の初歩なのよ」

 アマリリスの言ったとおりなのだが、実際に政府にばれている。

「もう一人の付き人だったロンって人はどうなの?」

 もう会話さえ喉を詰まらせるアマリリスに見かねたフローラが声をかけた。

「もう良い。アマリリスは疲れが溜まっておろう。休むが良い」

「はい。申し訳ございません」

 アマリリスは女神の肩に腰を落ち着けて、数秒後、スヤスヤと寝息が聞こえてきた。

「アマリリスもかなり疲れが溜まっておったからな。コヤツが取り乱したことはあまり気にせんで良いぞ」

 女神から力を抜かんとあとで怪我をするだけじゃからとの助言を貰い、ユーリーはまた仮眠をとることにした。


 ✝ ✝ ✝

 相変わらず男と美女が会うのは鏡がつるされた部屋だった。

「処分しろとは言ったが、殺せとは言うておらんぞ」


(まったく、うるさい人だこと)


 人があくせく仕事をこなしている時も、のんびりと高みの見物をしている男に用はないが、この男に逆らうのは得策ではない……今はまだ。


 女は黒い笑みを隠しつつ叩頭した


「失礼いたしました。しかし、この件は私が責任を負います。……いけませんでしたか?」


「いけなくはない……だが、このように勝手なことを起こしては国の威厳にかかわる」


 陛下の声は心なしか焦ったようにも起こったようにも聞き取れる。


(国の威厳? そんなの元から何もないわ)


「この件は私に任されたはず。陛下はただ王太后様の言うとおり過ごされていればそれでよろしいのです」


 美女の意見が余りに高圧的に聞こえたからか男は不満を漏らした。


「これはあまりに勝手が過ぎる。朕は依頼を取り消すことも考えておるのだぞ」


「そんな愚かなことをおっしゃらないで下さいまし。心配はまったく要りません」


 堂々巡りを察してか依頼屋は自分の意見を主張するとそのまま退出してしまった。

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