仲裁のつもりでもいなくなることも

✝ ✝ ✝


「起きないですね。三人とも……」

 木々で作った簡易すぎるベットを三つ並べ右から順にマリ、ユーリー、レンを寝かせている。


「ほんに珍しい。ここまで疲れが溜まっていたのか」


「マリにはそこまで強い眠りはないはずなんですが」


 アマリリスがかけたものは効力がもっとも弱いものだ。眠らせてからもう四日目も終わろうとしている。


「や、め……いや」

 今まで死んだように身動き一つしなかったマリがいきなり苦しそうに呻きだした。


「うなされているように見えるし……手を握ったほうが良いのだろうけれど」


「物は試しじゃ。やってみるがよかろう」


 アマリリスはしばらく迷っていたが、女神の言うとおり、ためしにマリに手を伸ばしてみた。すると、アマリリスの手は素通りすることなく温かいマリの手に触れた。


「驚いた! なぜマリにも触れることができるのじゃ……」

「この子、わたくしの言葉に反応しましたから。だから見えるだけじゃないかもしれないと思って」


 希望の少女でもない人間にふれることができるということは、予言についての定義が変わってしまう。マリは苦しみながらも、うっすらと眼を開け、アマリリスの手を振り払った。


「何を――」

 動揺する神たちをマリは遮った。

「妖精……聞けぇっ」


 マリが苦しそうに喘いだ。

「もうぅ限界、私がっぁ、見えるのは、の血を舐めたことがあるからだ……」


「そなたは……」

「だかっらぁ、あんたが分かるんだ」


 マリの声はどんどん小さくなっていき、アマリリスをさした腕が落ちた。呼吸が止まったマリの左手首に丸い痣が浮かんだ。


「……この痣は、呪術かのぅ」

 マリは呪い殺されたことになる。


「女神、蘇生はできないのですか?」


「知っておるじゃろう。無理じゃ。魂が失われてからの蘇生はできぬ」


 神とはいっても死については別の次元で、何人たりとも自然の摂理からは逃れることは出来ない。

 アマリリスは悔しそうに顔をゆがめ、聞こえないくらいの音量で呟いた。


「助けることが出来たのにっ。回復の薬草があれば」


 妖精界には回復の薬草と呼ばれる薬がある。それを飲めば、死者でも起き上がることが出来る。


「けど、もう手に入らない。妖精の世界は。妖精はもう」


「アマリリス、それは考えなくて良い。今は生きられることを思うのじゃ」


 アマリリスの涙の原因を知っているらしくウィンデーネは彼女の頭をなでてやった。


「ユーリーも泣いておる」

 アイリーは気が付いたのだ。眠っているユーリーの目尻からは涙が一粒流れ落ちていたことを。


「マリ、逃げて、ごめんね」

 ユーリーは謝罪の言葉を口にして、また意識は夢に落ちてゆく。


「……ユーリーは起きんが、そろそろ動かなければ、政府に先手をうたれてしまう」

 深刻なフローラの発言に妖精は頷いたのだった。

「結界を張って移動となるがマリは連れて行けぬ」


「どうしてですか?」


「わらわの結界には自ら呼吸していないものを運ぶことは出来ぬのじゃ。つまり生きていない人を運ぶことはできぬ。それが理なのだ」

「そんな」


 絶句しているアマリリスを尻目に女神達はサクサクと準備を進めている。

「ここに置いていくしかあるまい。彼女に安寧があらんことを」


「仕方ないのよ。アマリリス。祈ること優しさよ」


 アイリーが囁いた。結界を説いてマリは路上に捨て置かれることになった。起きない人間たちは布袋に入れられて、王都を目指すことになった。


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