後悔とこれからの関係

「ツライかったのでしょう、マリ。ごめんなさい」


 心から詫びることしかユーリーに出来ることはなかった。

 いまさら言葉で謝ったとしても、彼女たちの心には届かない。


「あんたなんか居なければ私は――っ」

 マリは最後まで言うことなくパタリと倒れた。


「マリ!」


 ユーリーは崩れ落ちたマリを抱え、涙を流しながらも愛おしそうに顔を撫でた。


「ごめんなさい。近くにいたのに、あなたの悲鳴が聞こえなかった」

 マリの裏切りに心を打たれたレンは、ただ茫然と立ち尽くしていた。


『彼はマリと話したいと思うだろうけれど、眠って貰ったわ。これ以上聞くのはユーリーにとって負担にしかならないから』


 アマリリスが睡眠性のある花粉をかけたのだ。


「疲れたろう。そなたらも少し休むと良い」


 涙にぬれるユーリーと愕然としているレンは心地よい絹に包まれるように、女神アイリーの黒い霧に覆われ二人は意識を手放した。


「これまた大変じゃのう。アマリリスよ」


 そうですねと長旅から帰って、疲れ切って覇気の薄い妖精はそれでも笑って同意したのだった。


 ✝ ✝ ✝


「残念ですが、失敗したようですわ」


 そんな報告に意図せずに舌打ちをした。相変わらずの暗い部屋だ。

 鏡があることも変わらない。しかし依然と違うことはいすが二つになったことだ。

 男と美女が向かい合う形で座っている。


「マリが落ちたのか。アイツは感情的になりすぎるのが欠点だったな。依頼の内容も正確に掴んでいなかったようだしな」


「そのようですわね」


 直接、彼女の機嫌の良し悪しが分かるわけではないが、それでも、かすかに、唇が笑みの形に歪んでいた。


「なんだ、随分嬉しそうだな」


 美女はゆっくりと頷く。


「もちろんですわ。何かと足を引っ張ってくれましたもの」


 仕事の口調にしては饒舌に話している。確かにマリは見習いながら、色々采配をしている。腕は悪くないが、感情的になる場面が多かっただけのこと。


「まさか、ちゃんと説明しなかったなどということはあるまいな」


「私側にミスはありませんわ。そんなことより小手調べは終わりました。あなたの依頼、私が引き継がせて頂きましょうか?」


 キラキラと目を輝かせ、才色兼備・凄腕の暗殺者は決定事項の質問をした。

「今更それを聞くな。もちろん続けるにきまってる。

 今度こそ成功するのだろうな?」


「もちろんそのつもりですわ。それと、マリはこちらで処分させて頂きます。

 いかがでしょうか?」

 女は聞いている者まで嬉しくなる声で是非を問うた。

「好きにしろ」

 

 彼女の欲しいものは眼の前でもあったから、笑みは絶えることはなかった。

「お前に渡したいものがある」


 そうして男は光るものを放った。

「これは――指輪?」

「嵌めておけ。もうすぐ神の眠りが解ける。

 それは神の能力を引き出し、幻術を見せる」


 女は凄絶に笑った。


「有難うございます。私の腕で期待以上の成果をお見せいたしましょう」

 女は左薬指にはめて、退出の礼を取った。

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