長い旅にの末に

✝ ✝ ✝


 そうして旅を続け、目的地には二カ月も経たないうちにたどり着いた。



『ここが水神の棲む湖よ』


 ユーリー達は既に疲労困憊しているが最後の力でアマリリスに問いかけた。


「――普通の湖だけど、どうすればいいの?」


『簡単よ。ユーリーが幻の極東の島に伝わる言葉を唱えれば出てきてくれるわよ』

 ユーリーは疲労もあってかアマリリスの言い方に苛立ちが増す。


「だから、どうやればいいのかを聞いてんのよ!」

 アマリリスは少々むくれながら口を開いた。


『臨兵闘者皆陳列前行って言って』

(なによ、それ。でもこだわってる場合じゃないか)


「り、臨兵闘者……皆陳列前行」

 すると、耳に――と言うよりも頭に直接響く。


「わらわを呼ぶのは誰じゃ」

 水面から長身で美しい女人が姿を現した。水が縄張りだけあってか纏っている絹は透き通る水色だった。


「お久しぶりです。女神ウィンデーネ」

 ユーリーの肩から地面に降りてアマリリスは頭を下げた。


『おお。アマリリスか。それでは、となりにいるのが〝希望の少女〟じゃな』

「はい。彼女と、うり二つの娘でございます。何でも血縁者とかで」


「協力者である人間にそんな言い方をするものではないぞ」

 流石に神と妖精の間では話が早く、すぐに今後の話し合いとなった。


「長い時がたってしまったからわらわだけでは力が弱くてのぅ。せめてアイリーが居ればちと違うのだが」


「アイリーって霧の神様よね?」

「うむ。よくわかったの。アイリーが居れば心強い。

 そやつが北の村に鎮められているのじゃが……」


 そこまで話して女神を表情が曇る。


『アイリー様でございますよね――私が呼んで参りましょう』


「大丈夫なの? 私が行かなくて」


「いいや。不思議なことにアイリーは妖精にしか興味がなくてのぅ。そなたが何を言っても聞かぬじゃろうからな」

 女神に協力を頼むと言いつつ、水の女神の美しい顔は暗く沈んだままだ。


『巻き込まれたくないお気持ちは判りますが、ここはアイリー様の力が必要です。どうかその様な顔はなさらぬよう』


「解っておる。わらわにもそなたらにも判らぬ。アイリーの苦しみは」


「私は察しかねますがどんな形であれ必要ならば呼んだほうが良いかと思います」

 その言葉を聞き、アマリリスはしばらく眉間に皺を寄せていたがやがて頷いた。


「アイリーの件はアマリリスに任せたぞ。――残りの人間たちは剣の稽古。いや、それより戦闘の基本を叩き込まなくてはならぬか」

 

 それを聞いて体力のないマリはうな垂れたのだった。一日くらいのんびりしたかったのだろう。

「もう夕方なのね。アマリリスはどうするの? すぐに向かったほうが良いんじゃない?」

 ふと空を見上げたユーリーがそんな感想を述べた。


「そうじゃな。早いほうが良い。今から行けるかの?」

『かしこまりました』


 短く返答しアマリリスは透明な羽を使い、飛んで行った。


「あの、私たちは休みたいのですけれど……」まさか神様に命令はできないので、上目使いで聞いてみると女神フローラはくすくすと笑った。笑うとえくぼが出来てずっと可愛らしい印象になる。


「そんなにかしこまらんでもよい。そなたらの名はなんというのじゃ?」

「私はユーリーです。背の小さい彼女はマリ。男の方はレンと言います」

「よろしくのう。ユーリー、マリ、レン」


 マリは気さくに挨拶をしたが、レンは生来、初対面の人には無口でぶっきら棒な性格なので軽く会釈しただけだった。

「さて、もう夜になるな。明日からしごくから覚悟しておくが良いぞ」


 台詞は怖いが、女神が笑って言うものだからユーリーまで笑ってしまった。

「宿はすでに用意ができているぞ」


 片手で示されたのは、湖の上に浮いている部屋が四つしかない

 簡素な造りの小屋だった。


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