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「じゃあ、予言については他に伝わっていることはないの?」


 アマリリスは躊躇っていたが、

すっかり目が覚めてしまったユーリーが好奇心旺盛な姿勢を示すように

身を乗り出してきたので観念して話し出した。


「予言についても精霊界ではまだ続きがあるわ。‘サンラレ’と一文字でしか伝わっていないけど、未来は自分で切り開くものって意味なのよね」


 だから予言どおりにいくかどうかは分らない。

それが人生の醍醐味といえばそれまでだけれど。


「ふ~ん。当たり前のことを説くのね」


 聞きたい事はなくなった時、

暗く寒い中でマリのほうから衣が擦れたような音が聞こえた。


「――どうなさったのですか、ユーリー様?」


(いけない! マリが起きちゃったじゃない)


「なんでもないわ。 ――まだ早いわ。寝ないともたないわよ」


 マリの体力では辛いだろうと思ったから言ったのに、

彼女は完全に目が覚めてしまったらしく、毛布の中でウズウズしている。


「ユーリー様、少しの間景色が見たいのです。少しだけでいいのですけれど」


 マリに小声で頼まれれば否といえないのがユーリーの昔からの弱点なのだ。


「わかったわよ。好きにしなさい。でも明日休みたいって言っても聞かないからね」

「……ユーリー様。あの、お願いしたい事が」

「なぁに? 改まって」

「これをレンに渡していただきたいのです。直ぐにでなくて良いのですが」


 マリの頬はこんなに暗がりなのにはっきりわかる桜色をしていた。

彼女に簡単な事情を聞いたユーリーはにっこりと笑った。


「解ったわ。時期が来たら必ず渡すわ」

「ありがとうございます」

 小声での会話はそれきりでアマリリスとマリは外の景色に釘付けだ。

『ユーリー、顔上げて見てみなよ』

 再三のアマリリスの誘いに、いい加減うんざりしたユーリーは窓辺に行き、

外を覗いた。


「――綺麗」

 そんな陳腐な言葉しか出てこない。

(この世がこんなに綺麗なものがあるなんて)

 そんな感動したユーリーはこの旅の辛さがわかっていなかった。

周りの人の痛みも……



 ✝ ✝ ✝


 空が白んだら、また辛い旅路の始まりだ。

まだくっ付きそうな瞼を擦りつつ、一同は馬で駆けて行く。

茨の山道も、雑草に覆われた沼も、街道も。


 こんな朝から街道を通る人影はほとんどなく思う存分駆けることが出来る。


『快調ね。何もないといいのだけど』


 馬が疲労を溜めないようにと配慮して、

休憩は最低限しか組まずにユーリー達は自身の体力が持つ限り突き進んでいった。


 働いた金は結局、宿泊代ではなく物を買うことに当てられた。


 食料を補うために寄った町村でも政治に関して直して欲しいことを聞いて回った。


 橋の整備が出来ていない。

医者がいない。役所が取り合ってくれない。

等などきりがないくらい寄せられた。

町人より農民や難民のほうが政府に不満があるらしく、

どこそこの役人の管理が駄目だ。という声が目立った。


 流石に、冬に馬を駆けるのは辛く、

常に手足は冷え切っていて、保存の効く食料も限られるのでとにかく辛かった。


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