3-3. 自由

「そうね。風が気持ちいいと思えたのは何年ぶりかしら。

 こんな爽快な気分はホントに久しぶりよ」


 海が近いせいか潮の香りが体に纏わりつく。

 見晴らしの良い高原が安らぎを与えてくれえる。


「あれは……リー様」


 ユーリーは名前を呼ばれた気がして振り返った。

『あらあら! マリって娘と金髪の……』


「――レン」

 馬にのった人影とかろうじて判る距離から

 あっという間に話ができる距離まで詰められてしまった。


「ユーリー様、何故この様なことをなされたのですか」


「皆、大層心配しているんだ。戻るぞ、ユーリー。って怪我してるし」


 追いかけて来てくれた二人には申し訳ないと思うが、

 帰るわけにはいかない。

 かといって事情を包み隠さず話すことも躊躇われた。

 傷口を見ようとかけよるマリをやんわりと拒絶していった。


「ごめん。なにも聞かずに帰ってほしいの」


 頑迷な態度をとるユーリーにアマリリスは囁きかけた。


『いいわよ、事情を説明して。わたくしから言いたいところだけど、

 彼らに声は届かないから……残念だわ』


 アマリリスの申し出に感謝しつつ、

 ユーリーは二人に事情を明かした。ただ一つの嘘を除いて――


「信じられないぜ。ユーリーだけにしか見えない、なんてさ」


「今、私の肩に止まっているんだけど視えないかな?」


 アマリリスの輪郭をなぞるように示すも二人は呆気にとられている。


「へえ、俺は視えないけど、凄いな」


「わたくしにも視えませんが、本当にならすごいですわ。さすがユーリー様です」


「やっぱり! 二人とも理解があって、助かるわ」


 もともと信仰深く、神だの、天使だのを信じている二人にとって

 興奮することはあっても疑うことはないらしい。


「けど主様も心配してるんだ。事情を説明しに戻ったほうが……」

「――そうしたら馬鹿馬鹿しいって切り捨てられるわ。それにやりたい事は最後まで貫きたいじゃない! だから戻って」


 その言葉を聞いた使用人達はある考えが浮かんだ。

 ユーリーには気付かれないように意地悪い笑みを閃かせていた。



「へ~やりたい事ですわね? 結婚相手を紹介すれば家出の言い訳になりますから帰りましょう。その最愛の彼を連れて、ね」


「いや……それはね……そ、そう。今買出しに行っていて」


 ユーリーは柄にも無く目が泳いで、声も震えている。


「目が泳いでる。ほら見ろよ。

 好きな殿方ができたってのが嘘だって判り易いんだよ」


「ユーリー様は嘘ついた時には分かりやす過ぎなんですよ」


 完璧に嘘ではなく、ユーリーの理想の話なのだが……


「冗談でしょ! 何でばれるのよ」


 全て見透かされていたと知り、ユーリーはこの場から消えたくなった。


『あら意外だわ。何も言わなくても、わかりあえるとは面白いね。あんた達ってさ』


 アマリリスが可笑しそうに述べる。


「誰の所為でこんなことになっているのよ」


 ボソッと言った言葉に対し喰えない妖精はあっさりと答えた。


『決まっているじゃない。ユーリーの意地っ張りな性格のせいよ。

 それに強いて言うならば……』


 後半は突風が吹いたせいで聞こえなかった。


「えっ、何かいった?」


 彼女はなんでもないわと首を振った。


 ユーリーはこの妖精の性格は確実に悪いと思わずにはいられなかった。


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