11.妖精との対話
たっぷりの沈黙のあと、ユーリーは呟いた。
「私にも見えていますけど」
ポカンとするユーリーをそのままに話は進む。
――予言が信仰され続けているのは、貴族中心の世界を民衆中心の世界に変えることを人々が望んできた証。オウカに予言について包み隠さず話すと初めはとても嫌がったけれど何度目かの説得で〝差別のない世界にする為に〟と了承した。
「でも、彼女は弱かった。肉体的にも、精神的にも――」
生まれた時から王宮暮しをしてきた彼女にとって、休む場所も確保できないなどという事態にはさぞ困ったことだろう。
女神を目覚めさせる途中旅の疲れが見えた頃、時の王は何でもこなせる依頼屋を差し向けた。
オウカは武術も習っていたけれど、殺しの専門でもあった依頼屋の前では何の役にも立たなかった。
「わたくしは――彼女を守れなかった」
アマリリスの説明が、オウカに対する懺悔に変わっていたけれどユーリーはそれに触れず聞いた。
「でも私、下級とは言っても、貴族層の住人よ。そんなの」
「言ったでしょ。オウカは位が高かったって。彼女は当時の王様と従姉弟って間柄だったし。ようは気持ちの問題なの」
「え? それって国の中枢にいたってことでしょ?」
昔のことながらオウカの行動力と生まれた家柄は感嘆するしかない。
「昔は、今より階級社会が厳しいものだと聞いたことがあるわ」
「そうよ。法律はとても厳しくてね。その中でオウカはもがいたの。それからの王様はその事実を隠すので精一杯なわけ。どう? あなたが歴史を変えて名を残したいと思わない?」
でも、とユーリーは口ごもる。彼女には決断出来ない過去があるのだ。
「その人はすごいと思うわよ。私だってこんな社会は嫌よ。人の顔色窺ったり、建前と本音を見分けたり、不満だってある。けど、今の地位を失いたくないのが本音なのよ」
ユーリーが醜い心を打ち明ければ、妖精の優しい微笑にぶつかった。
「予言もされてあるのだし、神様だってついている。もっと気楽に考えてみたらどう?」
人間である少女は、必死に頭を回転させて話を繋げる。
「疑問があるわ。なんで神様や妖精が王と敵対しているわけ? 結束したほうが民を支配しやすいでしょ?」
「それは……わたくしの口から言えないの。だけど民自身がこの階級社会を変えてほしいのよ。今はそれで納得して」
ユーリーは赤子をあやし、真実を話してくれない扱いにムッとした。
「答えは決まったわ。この件には関わらない。危険な真似はしない主義なの」
ユーリーが険悪な声を出すとアマリリスは必死に説得をしてくる。
「貴女の考えはわかる。あなたの生い立ちを見ればこの扱いに不服だと思うわ。本当につらかったはずだもの」
「フン、あんたに何がわかるって言うの? 私一人が辛かったなんて言えないわ。どんなに周りが苦しんだか、そして私がどんなに大切な人を裏切ったか」
ユーリーが嘲りに近い笑みを浮かべれば、妖精は簡潔に知っている限りのユーリーのおい立ちを語る。
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