10.妖精との対話
ユーリーは笑いをかみ殺そうとするも失敗し、口元がゆがむ。
「……何で笑うの?」
「いや、超絶な美人なのにお喋りって感じで当たっているからつい、ね」
嫌味が含まれる言い方にもアマリリスは顔色一つ、変えずに答えた。
「素直な娘ね。美人とは言われたことないわよ。あなたが初めて」
ユーリーは妖精の艶めかしい横顔に思わず息を飲んだ。
その様子を分かっているのかいないのか、アマリリスはなおも話しかけてくる。
「ねえ、今の時代の美人ってどんな感じなの? ユーリーって美人?」
(少しでもこの妖精が綺麗と思った自分が憎いわ)
先程の憂いを帯びた表情は消え、いたずら好きの少女の顔になったのだから。
「勝手に思っていればいいじゃないの。顔が不細工ってさ」
ユーリーは己を指差して言った。
ユーリーの顔はすっきりした一重瞼、低めの鼻。紅の唇は厚い。
そんな平凡な顔を縁取るのは肩まである黒髪だ。
アマリリスはためらいもなく否定した。
「いや。そうじゃなくて、人間に関わるのって二,三百年は前のことだし……美醜の判別がつかなくて」
軽やかなテンポでの会話は、建前で言っているのではなく真実アマリリスが思っていることだとあっさりと納得してしまう。
「そういう時は、〝貴女は綺麗〟って言ったほうが嬉しいものよ。少なくとも人間の女にはね」
「そうなの?」と首をかしげている姿も愛らしい。
ユーリーは根負けして、世渡りの常識を教えてあげることにした。
「――私は平凡な容姿よ。……美人の条件は目が大きくて、二重。マツゲが長くて色白で鼻が高くて、痩せていて……金髪の質が良ければなおよしって感じかな」
指折り説明した後、私には縁が無いとユーリーは切なく言う。
「だって母親がね、異国からきた人だったから。皆は色が白いけど私は黄色っぽい肌だし」
「ふ~ん。そんなものかしらね。この国でも一重で、健康的な肌が綺麗と言われていた時代もあったのよ」
それを聞いたユーリーはキョトンとした。
(なんだろう。言外に気にするなっていわれたみたい)
「それでオウカ。貴女に話があるのだけれど」
「オウカって何のことよ?」
疑問の声を上げると妖精はあわてて弁解した。
「い、今は違うのよね。……貴女の名は」
「ユーリー・フランよ。何なのさっきから」
ユーリーの声に苛立ちが滲む。
アマリリスは何か弁解しようとしたが、みどり色も瞳が左右に動いただけで、
何も出てこなかったらしく、潔く言ってくれた。
「さて、なにから話せば良いのかな」
アマリリスは何かを考えているようだったが、
しばらくして、彼女の過去が紅い唇から紡がれる。
「三百年前に、わたくしはある少女に会ったの。あなたにそっくりの容姿でね……違うのは髪の色が金だった事と位が高かったってことよ。
彼女の名はオウカ・ランジェリア。唯の人には見えないわたくしが、彼女には見えた」
聞いているユーリーは疑問符を浮かべているのを表すように小首を傾げた。
ユーリーはアマリリスの慈愛に満ちた眼差しに気がつくことはなかった。
「その娘は、かの予言の〝希望の少女〟だったの。少女の条件はただ一つ、わたくしが見えること」
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