8.妖精の声

『窓を開けて。わたくしの声が聞こえるならば』

 頭の中に反響し、

 二重に聞こえる不思議なソプラノ域の声がする。

 その声にみちびかれるままユーリーは窓を開けた。


 冬にしては暖かく、

 それでいて強い風がユーリーの髪を攫い、

 長い髪は彼女の顔を隠した。



 髪を振り払い、その相手の姿を見たユーリーは

 開いた口が塞がらなかった。


「こんばんは。お嬢サン」

 なにしろ、手のひらほどの人が浮いていたのだから。


 ブルーの瞳と肩まである漆黒の髪。

 ピンクを基調にうっすらと化粧をしている。


 一見、統一感の無そうだがそれぞれの色合いがとても似合っている。

「な、んな、のよ……あなた」

 人外の種族を見て、ユーリーは唖然とした。

「あっごめんなさい、驚かせてしまって。

 やはり初めは自己紹介からよね」


 まだ反応を示せないユーリーを置き去りにして、

 ペラペラと語り始めた。


「わたくしはアマリリスっていうの。

 花の妖精で、花を咲かせたり、環境を整えたりしているわ。

 人間に関わるのは三度目……かな?人間って見ていて飽きないのよね……

 それと趣味はねぇ――」



 指折り数える妖精を見てやっと我に返った

 現実主義のユーリーは青筋を浮かべて、手を打ち鳴らした。


「待った! 幻覚よね。妖精なんて予言書と同じ類の言い伝えにすぎないわ。……だれか――」

 大声を上げようとした瞬間、

 透き通った羽を使って、アマリリスはユーリーの口を塞いだ。


「五月蠅いのは嫌いなのよ。

 それに多分、呼んでも誰も来ないわよ。

 皆、宴の最中なのだから」


 階下では微かに華やかなオーケストラの音色が聞こえてくる。

 ここで水を差すようなことをしようものならば、

 事情など聞かれずに非難の嵐だろう。


 そんな打算が働いてしまう自分に嫌悪しながらも、羽を払い意見する。

「じゃあ、とやかく言わないから出て行って」

「それも無理よ。人間たちの間では言い伝えに過ぎないけれど。

 貴女には知って貰いたいの」

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