7.疲れと目論見

 ✝ ✝ ✝ 


 部屋を出ると、螺旋階段の前にいたマリが駆け寄ってきた。

 マリが1番ユーリーの様子を気にかけてくれるのだ。


 一応お客様の前にでてもてなすというのだからドレスは着ている。


 しかしユーリーのように華やかではなく、給仕係用のドレスだった。

「ユーリー様、大丈夫なのですか? 顔色が悪いようですわ」

 強張る顔を無理に笑みの形にして、心配性のマリを安心させる。

「大丈夫よ。それより、今日も籠るから部屋には……」

「わかっております。入りませんから、お休みくださいませ。

 今にも倒れそうではありませんか」

 

 多くを言わなくても察してくれるマリは、貴重な存在だ。


 屋敷の中で使用人は大勢いるが、いつもユーリーのことを思って、

 行動してくれる人はそうそういない。

 もっとも屋敷の全員がユーリーの父親によって雇われていると思っているか

 ら仕方ないのかもしれない。

 いつもよりもふら付きながら螺旋階段を上がり、自室の鍵を閉めた。

「……さて、お嬢様は大変ですわ」

 マリの緑色の瞳には確かに大切な人を想う慈愛があった。


 ✝ ✝ ✝ 

 ユーリーが退出してすぐに二人組の貴族がパチンと指を鳴らし、

 オーケストラを止めさせた。

 今まで騒いでいたホールが一瞬で静まり返った。

 指を鳴らした男はため息を付いて言葉を発する。

「今日も失敗でしたな」

 傍らにいた男も同意して話し出す。

 この2人組は実はパーティー出席者の中で

 相当高い権力を持っているようだ。

 ほかの会場にいる客たちも彼らの言葉を聞いている。


「まったくですな。主催者の家で、

 その子供にワインを飲ませると、

 パーティーが催される屋敷は変わるなどと

 つまらぬことを始めたのが間違いでしたな」


「そんな約束事から何年になりましょうか?」


「もう10年くらいではなかったかね」

「刺繍職人など奴隷よりも稼ぎが良いとはいえ、

 あそこまでつけ上がることはないでしょう。生意気な」


「とにかく忘れて飲みましょう。皆様」


 その言葉を皮切りにまた周囲が騒がしくなったことや、

 口の悪い貴族が哄笑をしたことはユーリーの知らないことだ。


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