6.パーティー ワイン

 駆け引きのようなお世辞が飛び交う。

「そうなのですか。

 ではまたの機会がありましたらお願いいたしますわ」


 ユーリーは口々に言う貴族をあしらい、

 席に着いた。時折男たちがユーリーの方を見てくる。


(居心地が悪いのよ! まぁいつものことなのだけれど)


 ふと視線を上げれば大きな暖炉が煌々と燃え、

 華やかさを際立たせていた。


 華やかな空間で人々が陽気に談笑する姿に

 ユーリーはうんざりしていた。


「ユーリー嬢、ワインなどはいかがでしょうか? 

 こちらのロマネ・コンティは珍しい五十年物ですぞ」


 先ほど絵の話をしてきた2人組の貴族が話を振ってきた。

 先ほどよりも頬が赤く、声も大きくなっている。

 酔っ払っているようだ。


「いえ。以前、飲んだことはありますので」


 このワインはこの近くの街では珍しいかもしれない。


 だが、ユーリーは刺繍職人の資格を進呈するために

 宮殿に一度だけ行った。その時にワインを飲んだ事があるのだ。


 1番階級が低かったためにとことん飲む羽目になったから、

 よく覚えてはいないことではある。


 そんな回想をしている間にも

 ガヤガヤとしたささやきは収まらない。



 愛想笑いを浮かべていた口元も

 あまりの馬鹿騒ぎに次第に引き攣ってきた。


 ある男性に並々と注がれたワイングラスを示されたので首を横に振り、

 固辞の素振りを見せた。


 酔っているから気にせずに勧めてくる。


「遠慮せずに。さあさあ」

「ですからわたくしはあまり好きではないのです。

 遠慮しますわ。それに気分がすぐれませんの。

 今宵は下がらせていただくわ」


 腰を上げかけた彼女に貴族の男は腕を掴んできた。


「最後に1つ。提唱者が亡くなられたとか」


「……そうでしたの? 惜しいことですわ」


 優雅な見た目にそぐわず、

 強い力に顔を顰めつつも貴族のほうを見れば胡散臭い笑顔にぶつかった。


「最も風の噂に過ぎないがね」


「そうでしょう。本当なら困りますわ。失礼いたします」


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