5.パーティー

 ✝ ✝ ✝

 オーケストラが響く会場に足を踏み入れると、

 貴族二人組が声をかけてきた。

 高官が着ている服には、

 旗のマークを腕につけるという決まりがある。


 大きさについて規定はない。

 服本体に刺繍してもよいし、

 バッチにして身につけるでもよかった。

 この2人は左腕に刺繍をしていた。


「ユーリー嬢。今日も似合っておられますよ。

 いつか画のモデルとなって下さいませんか?」


 ユーリーの眉が怒りを示すようにピクリと反応したが、

 派手な2人組は気づかない。

 もちろん陽気に酒をたしなんでいる周囲の貴族たちは

 ユーリーの存在に注目することはない。


「いえ……」

「いい考えですな。ユーリー嬢、そうしていただければ、

 その画は、高額で買わせていただきますよ」


「いいお話でしょう。

 刺繍だけで生計を立てるのは難しいでしょうからな」


 ここでいう絵というのは女性の裸体と天使を組み合わせたものなのだろう。


 確かに宗教の対象としてかかれることも多く、

 数々の作品がこの世に存在する。


 若い女性にとっては抵抗があることもまた、事実だ。


 彼らの厭らしい笑みをみた瞬間、

 抑えていた嫌悪感がふきだした。


「できません。姿を写すなど――」

「なぜですかな? そんなにかしこまらずともよいのに」


 わざとらしく問う貴族に、

 とっさに作った笑顔で応じる。


 だがその笑顔は多少引きつっているのだろう。


 彼女は出来るだけ冷たい声音を意識する。


「いいえ、なにも……お2人ともわたくしの生業は刺繍にございます。

 ですから遠慮させて頂きとうございます」


 彼女が目指すのは慇懃無礼な態度だ。

「そうなのですか? 残念です。

 あなたは画に映えると思いますぞ。

 神秘的な淑やかさがまたいいと思うのですが」


「艶めかしいというのですかな。

 どこかで見たような懐かしい感じを受けるのですよ」


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