3.売買

 今回で売買成立させたいのだ。

 ちなみに納得したものを買いたいから代金はまだもらえていない。

 

 作り手としては癇に障ることこの上ないが

 これ以上何か言われてはユーリーの信用にかかわる。

 丁寧に慎重に包装した。


「では、ドレスも忘れずに。

 それはレンと主様がお選びになりましたの」


 不機嫌を察してか、マリはそう言って退出した。

「ホント、思い出しただけで腹立たしいわ」

 

 着ている赤のドレスを乱暴に脱ぎ捨てて

 パーティー指定の青いドレスに着替える。

 そして、姿の確認するために大きな鏡の前に立ってみる。

「なんでこれを選んだのかしら? 

 レンもお父さまも見る目ないわね。

 さっきの服のほうがあっていたのに……媚を売っているみたい」


 前方からみれば群青色の重厚感あるドレスと見える。

 後ろは背中が露出しているという大胆なデザインだった。

 ユーリーは小柄で、商売道具の両手は天女のように美しい。

 その姿を形容するならば凛々しいがよく似合う。


 「可愛らしい」が褒め言葉の時代だからか

 賞賛されることはない。

 女らしさに欠ける肌が見えるドレスは、なお映えないのだ。

 すべての感情を消して、

 精神を安定させる言葉を口に出す。


「ここからは無の時間。何も思わないこと」


 言葉の魔法のおかげか自室の扉を閉めた時には、

 震えは納まって背筋を伸ばす余裕が生まれた。

 オーケストラが鳴り響く会場へ繋がる螺旋階段を下りていった。


 ユーリーにとっては地獄でもあり、

 戦場といえる空間に……



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