脱出へ
3-1.噂と隠密行動
余りの騒ぎように、アマリリスは眉を寄せた。
『上に立つはずの指導者達がこんなんでいいのかしら?』
「いいわけないけど、いつもこんな感じよ」
さすがにユーリーも幾百年も生きている妖精にしみじみ言われるとは思わなかった。
「まあ、なにはともあれ行動開始ね」
ユーリーは迅速に、かつ静かに行動していく。
部屋からでて、螺旋階段を平然と降りる。使用人達に見付からない様に。足音に注意を払いながら裏口を目指した。幸いにも裏口に近い部屋は刺繍で使う布置き場だ。
「おかしいと感づかれないと良いけど」
途中にある食堂も、広間も、展示品のかざってあるギャラリーも、地下階段の入り口をも通り越し、やっと裏の扉にたどり着いた。ちょうどよく死角となる円柱が目に付いた。
「良かった。隠れ場所があって」
そこでは貴族を送り出す為なのか、使用人達が皆集まって話をしていた。
「ユーリー様も可哀想だな。あんなのが結婚相手だなんて」
「しっ。めったなことを言わないの。万一にもお嬢様に知られたら
私たちの首が飛ぶことよ」
給仕の女は周囲を確認しているところを見るに
余程聞かれてはまずいことなのだろう。
(結婚相手? めったなこと?……首が飛ぶって何のこと?)
疑問符だらけのユーリーを残して、使用人達は表に出るべく散っていった。
『ね、ユーリー。後は外に出ないといけないんじゃないの?
草陰に隠れていたほうが』
アマリリスの良い提案に一も二も無く賛成したユーリーであった。
こっそりと外に出て表に回りこみ、
草陰に荷を潜めていると今日の最高権力者様らしき男と父が連れ立っていた。
「いや~今日も楽しめましたな。明日は私の娘も臨席させますゆえ……」
(私の娘って……間違いなくあたしのことよね?)
「それは楽しみですな。それならば私は姫の婚約候補となった兄を
連れて来ましょう。姫様もきっとお気に召されるでしょう」
(冗談!なんで会わなくちゃならないの?)
まだ雑談は続いていたが、
ユーリーは一刻も早く屋敷から離れたくなった。
さっきの使用人達がまた集まって話をしているからだ。
(早くしないと覚悟が――揺らいでしまう)
だが、焦れば焦るほど体は震えてくるし、歯の根もかみ合わない。
心臓の音がうるさく感じる。
ユーリーがいることを知らぬ使用人達は雑談を続ける。
「主様も人が悪い。にこやかな顔をして」
「無駄口を叩かない。姫様も口答えなさるからいけないのよ」
様子のおかしいユーリーを気遣ってアマリリスは進言する。
『向こうに馬がいるわ。馬屋も近くに在るし、早く行きましょうよ』
予言の少女は俯き、首を横に振るばかりで答えない。
その間にも煩い下働きはさえずり続ける。
「でも流石、姫様ね。会うってことは嫁にいくのと同義だろう」
「潔いわよね~」
アマリリスの配慮も虚しく、ユーリーは洟をすすり、目をこすっている。
『ちょっと。ユーリー・フラン! しっかりしなさいよね』
アマリリスの叱責でユーリーは目に冷静な光を取り戻す。
馬のところまで走り、やっとのことで飛び乗った。
「頼むね。後で疲れに効く薬買うから」
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