4.失われた寵愛
「では鏡の前にいらしてください。
最新の化粧品を手に入れたようですから
一度姫様にもお試し願おうかと思っておりまして」
長い時間をかけて鏡の前に移動した。
眼窩はくぼみ、頬はこけ、髪の質も悪くなっている。
化粧係の侍女も呼んだ。
3人がかりで明るい話題を振りまいて、彼女に化粧を施していく。
少しでも明るく見えるようにピンク色の服を用意した。
彼女はまたぼんやりと考えた。
(あの人の訪問もずいぶんなくなったものね。もうこれで最後かもしれない)
今まで期先が一人だったのは王の情からきたものに過ぎない。
一夫一婦制でない時代だ。
王は女に飽きたら新しい女を選ぶことができる。
もうこれで最後かも知れない。そんな予感を侍女たちの様子から感じていた。
わかっていたのに、現実にこうなると気持ちの切り替えができなくなるものだ。
若さへの嫉妬、置き去りにされることに対する不安は相当なもの。
「お前などに用はない」
彼女は嘆いた。
かつて彼女の前にひざまずき、私の王宮に来てほしいと願っていた男だ。
それは滑稽であった。
心のそこでは笑ったものだった。
王宮にくればたくさんのお金を実家に送ってくれると言っていた。
それを頼りに王宮に来た。
彼女は彼の一番であったはずなのに。どうして嫌われてしまったのだろう。
「敬意を表しまして、これからもここで生活なされよとのことでした」
彼女は安堵した。
自分の待遇には大きな変化はない。けれど、彼の大きな愛は離れてしまった。
彼女は昼は何事もなかったように過ごす。
夜になると精神が安定しなくなる。
あいにきてくれた夜もあったのに。
どうして今更放り出されたのだろう。
自分の何がいけなかったのか控えている人間に問いかける。
答えは簡単。
そのヒステリックな言動そのものが彼を疲れさせた原因なのだ。
どうしてと彼女は泣き叫ぶけれども誰も答えを告げることははばかられる。
父にも原因はある。
日に日に気持ちが離れていく様子をまざまざと見せ付けられて、
彼女の心はボロボロだった。
好きな人の目線が自分から離れていく苦しみがわかるだろうか。
相手の気持ちをとめるすべがあればいいのに。
離れていかないでと泣き叫んでみても鬱陶しいと思われるだけ。
侍女の恋愛話を聞いたことがあるけれど、
長続きするコツは「男に依存しないこと」
それを彼女は理解できなかったのだ。
「わたくしは陛下のために存在しているようなもの。
どうしてそのことを忘れることができましょうか」
その矜持が彼女の精神をさらに追い詰めることになる。
どうしても陛下の周りから女の存在は消せない。
陛下の周りも別の女のところへ通うことを隠そうとはしない。
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