2.母の嘆き


「どうして美しいまま死ぬことができないんでしょう」

「かわいいですね。

 大人になるころにはとてもお綺麗になられることでございましょう」


 麗しい美貌を持っている私は考える。

 周りの人間は私の容姿がすばらしいと賞賛してくれる。


 それは私の能力ではない。

 遺伝であり、この容姿で生まれてきたのはたまたまでしかない。

 かつて私の母は国でも一,二を争うほどの美女だった。

 彼女への賞賛は30歳まで続いた。


 しかし目元のしわが増えたとき、母への評価がガラリと変わった。


「あの人ってあんなに汚かったかしら?」

 いつも話していた人が影口を言うのを聞いてしまった。

 宮殿の中で一番信頼していた女性だった。

 会えばいつも髪はきれい、

 今日の化粧は素敵と褒めてくれていた。


 批判を直接口にしなかっただけなのに裏切りだと感じてしまう。


 一番信頼していた人に裏切られたと感じた母はふさぎこんでしまった。

 

 王様は彼女が元気なく生活していることを憂いて、

 幾度も彼女の寝室に駆けつけた。


 それでも元気になることはない。

 彼女に必要なのは信頼できる同性の存在であり、

 男が金で買ったものではないのだ。


 だから王様が何を話してもうなずくだけで何も説明しようとしない。


 彼女を励ましても頷くばかりで、外に出ようとしない。

 幼い彼女は寝室に入れてもらえなかったからドアをはさんで聞いていた。


「どうしてこのように元気がないのだ?」

 美しさをもつ彼女は逡巡した。

(王に言ってあの女を追い出してもらえばいい)

 ただあの女がいけないと言葉にすればいいだけなのに

 どうしてもためらってしまう。

 他意がなかったとしたら、私の思い違いなのだとしたら。


 そう思ったら口汚い言葉を言うことはためらわれた。

 きっと彼女は人の醜い部分に触れたくなかっただけかもしれない。

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