聖なる鎮魂歌

朝香るか

姫様は

1.不機嫌な公主様

 どんなに素敵なほめ言葉を貰っても嬉しくない。

 だって当然の事実しか人々は褒めないのだから。

「美しい髪をお持ちだ」といわれた。

 そんなの一日5時間セットしていれば当然のこと。


 「お召し物がお似合いですよ」


 これも当然。だってデザイナーが選び抜いて

 これがいいというものを身につけているから。


「麗しい」のだって当たり前。


 この私は国一番きれいと言われた母から生まれたのだからそれも当然だ。


「お年寄りの方からきれいなんて言葉もらってもうれしくないわ。

 早く式典が終わってほしいわ]



 もっと子供だったら式典に出たくないと駄々をこねるのに。

 もっと大人なら政治のことを学んで身の振り方を決めるのに。


「なんで中途半端なんだろう。どうしてこんなことを悩んでいるのだろう」

 もともとこの国は男性のみが継承権を持つ。


 それなのに国王――つまり私の父が強引に女性でも世襲できるように

 法改正を行った。


 そして、私はひとりっ子であるから今のところ唯一の王様候補だ。

 父親は早く結婚してほしいのか、

 しきりに私の周りに男性を置くようになった。


 式典の際にも男たちの賞賛が耳に入るような配置にしてきた。


 こんなにも褒められていると母のことを思い出す。

 本当に愛している人が分かればいいのにと思う。


 私の目に映るのは金と権力を欲している人たちだった。

 どんなに綺麗な事を並べても

 私の目には自分の欲を満たそうとしている人たちにしか見えなかった。 


 私の手元には国が動くだけの富がある。

 老若男女問わず、私は今注目の的であるようだ。


 私はふと手紙を書いたことを思い出した。

 人々が醜い本性を出す前に私は彼らの素顔をみたのだ。


 ☆☆

 20XX年11月25日 記念日。

 私は9歳の夏にこのようなことを書いていた。


 私が持っている宝物。好きなものを持とう。

 腕にいっぱい抱きしめて眠りたい。

 貪欲に生きることが人間たる証であろう。

 人間の性に抗うことはもうやめよう。

 そのほうがよほど建設的である。



 おさない彼女は書いていた手を止めた。

 彼女は幼いころから頭がよくて、

 字を書くことができるようになるのも早かったし、

 難しい単語の意味を理解することも早かった。


 母親の寝室で、手紙を書いていたときに母の嘆きを聞いた。


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