第12話 ヌル族の族長ゲタン登場

「わたじは、あなたがぼしい~~~~」

と叫び、にじりよってくる族長に、少し後ずさりをして間合いをとると、近くの茂みから2人が飛び出してきた。


セレブさんとセイムさんだ。

セイムさんが後ろから族長の両足を抱きかかえ、セレブさんが族長の上半身を羽交い締めにする。


「ジューローさん、早くお逃げください」

「ジューローさん、旦那は私の悩殺ボディーでメロメロにさせますからお早やく!」

いや、セレブさんはそんなにダイナマイトボディーでは…ちょっと、というかかなり貧弱…いやスレンダー…スレンダラーですよ。などと失礼な事を思っていると…


「ちがっ誤解だ…ぐっぐうう」

と声をふりしぼろうとする前に妻のチョークスリーパーでガックっと首が落ちた。


おい族長の妻セレブよ! 悩殺ボディーはどうなった。最初っから仕留める気まんまんじゃないか…


族長の扱い軽いな…


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上がり症な族長はつい緊張のあまり、息が乱れがちになってしまったが全然、男色の毛はないとのこと。まあわかってはいたけどね。


冒頭の「あなたが欲しい」というのはわしにネル族の副族長になってくれませんかという意らしい。わかるかい!


昨日合ったばかりの妻や、セイム、子どもたちが慕うカリスマ性を見込んでの事らしい。また、ふがいなく、威厳もない自分を副族長の立場から支えてくれないかとの思惑もあったらしい。


初めて会うわしにそこまで見込んでくれるのはうれしいのじゃが…わしは森の民全体の族長の座を狙って暗躍し、ゆくゆくは森の民の美しい女性限定ハーレムを…


……すみません。調子にのりました、ジョークです。


わしはまだこの世界に来て1日しかたっていなくとも、慕ってくれる子どもたちの為に、森の民の一員として役立ちたいと思う。わしの今まで経験した知識が役立つなら、森の民のために…という思いもある。


「…わかりました。こんなわしでよければ期間限定で副族長を務めさせてもらいます。スブム族長、これからよろしくお願いします。」

と手を差し出すと、握手の習慣などないだろうにその片手を両手で覆い、力強くにぎりしめてくれた。


「ありがとうございます。これから私を含む…いや、主に私を中心に森の民の人生まるごと、ゆりかごから墓場までよろしくお願いします」

と深々頭を下げた。


おいいいい~~重いよ。族長重いよ。期間限定って言っておいたでしょ。さりげなく自分を最初にもってくるなよ。そんなわしと族長を生温かく見守る妻セレブとセイム。


段取り通りじゃないよね?まさかみんなグル? そんなやり取りを森の奥の木の間からじ~~とみる4等身の影が…


呪い師のカカカじゃね?あっ手に細長い棒持ってる。あのやろ~朝一で確認にきやがったな。


族長が元気なのを見てロコツに残念そうな顔をして、こっそり帰ろうとするも、急にズボッて下に落ちるように消えた。まるで落し穴に落ちたかのような消え方をした。


天罰や!


とも思いつつ、あいつはあいつなりに、良かれと思ってただ仕事を淡々とこなしていたであろうだけだから、恨むのはお門違いか…。


しょうがない、覚えていたら後で助けてやろうか。そう思い、みんなで談笑してたら、

「族長~~~、セレブさん~~」と声が聞こえてきた。


昨日族長が倒れた事をセイムさんに伝えた小太りな女の人が現れた。また息をぜーぜーと乱している。

「ぜーぜーいま、族長のぜーーっっっは家に・・・」


乱れ乱れ話した内容に一同に緊張が走る。


「来たか・・」

族長が小さな声でつぶやいた。


朝方の散歩を終え、みんなで族長の家へ向かう。


すると先ほどの話通りに家の前の大きな石の上に体長190cmはあろうかというガタイのいい、厳つい男が座っていた。こちらを見るやいなや、石の上から飛び降り着地するかと思いきや、足がグキッてなって、あわててどこかに捕まろうとして手を差し出すと、伸ばした指先の中指をグキッって突き指してぎゃーあああと叫ぼうとして口を開けたところに鳥のフンが落ちてきた…


みんなが黙って見守る中、男は苦痛に歪めた顔をキリリと正して、今一連の動きを無かった事にしようと、もう一度石の上に登ろうとしかけたところでこちらから声を掛けた…


「がっつり見てましたよ。ヌル族の族長ゲタン」

「なんの事だ。わしは今着いたのだが」

といいながら片足をひいてる。


「…まあその事は後で。ところで今日は朝から早く、族長おひとりで?約束は昼以降だったのでは。」

「わしはせっかちなのだ。わざわざ分かりきっている答えを待ちきれなくてな。朝早く出向いてやったという事よ。」


心なしかセイムさんがびくびくしている。それはそうか、許嫁である族長の息子ゲフンをないがしろにしているのだから。


忘れてたけど、わしゲフンを放り投げてるし…ひょっとして今から肉弾戦がはじまるのかな。嫌じゃやな…とりあえず痛がってる足をローキックじゃな。そう心に硬く誓った時、


「…わかった、では家の中でゆっくりと話し合おうではないか」

そういってスブムがゲタンを室内に招き入れて、他の者には入ってこないよう言いつける。


わしも外で待っていようとしたらスブムが一緒に来てくださいと懇願された。いいのかよ、族長同士の話し合いじゃないのか?案の定わしが入って行くとギョロリと厳つい顔で怒られた。

「だれだ、貴様は!勝手に入ってくるんじゃない。」


「違うのだ、今日から副族長になったジューローを紹介するために入ってもらったのだ。」

「ふん、まあいい。副族長などには興味はない。では、改めて伺おう。約束の20日がたったが、決断したか?まあ、悩むまでもない選択だと思うがな!」


そう言われて急に汗びっしょりになるスブム。


「なんだ、まだうじうじしとるのか、あいかわらず優柔普段な男じゃな。どうせお前には代案なんぞないんだろ?だったらスパッと決断せんか、男らしく!」

そんなスブムにわしが助け舟を出す。


「ゲタン族長殿、どのような話か、わしにも教えてくれんかのう。今日副族長になった新参者とはいえ、スブムさんの戦略アドバイザーも兼ねておりますのでね」

そう言うと、初めてゲタンがわしの顔を上から、下からなめ回すように見た後に…


「ふん、お前がうちの倅ゲフンを投げ飛ばしたっていう老人は?」

なんで知っているのだ?こちらからは、何も話してないのに。


「なるほど…。いくら、頭の弱い息子だとて腕っ節だけは自慢だったのに通じないはずだ、やられてもしょうがない。貴様老人のナリしてかなりできるな。」

ただものではないなコイツ。ただもの以下の族長スブムとは大違いだ…。


「よし、わかった。お前にも話してやろう」

急に眼をするどく細めゲタンが言い放つ。


「この国の現状とネル・ヌル族のこれからっていうのを」

えっ、なんか最近お笑いパート少なくない?ひょっとして真面目な話しが続くの?

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