第11話 夜が更けて

族長の顔をみると、白目をむいて安らかそうな顔で寝息をかいてる。


「これで大丈夫じゃろう」

という声をかけると、みんなが一斉にうそつけ~~~という顔をしてた。


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なんと長い一日だっったのか…まるで小林十郎として、亡くなってから11話目ぐらいかかったような長さだった。


やっと1日目が終わるところかい!という読者の心のつっこみがここまで聞こえてくるようじゃ。あの後、族長を寝かしたまま夕ご飯をご馳走になり、みんなで食べた。夕ご飯といっても、ポポタンという日本で言うじゃがいものような野菜をふかした物と、塩だけで味付けしたジャガイモスープといった質素なものだった。森の民ではこれが主食だとのこと。あとは、狩りに出た男衆がたまに取れる獣肉のぐらいみたいだ。


裕福な東の民の主食はとうもろこしに似た植物らしい。とうもろこしを粉にして、パンなどを作ったりしているらしい。サトウキビのようなものも栽培して、砂糖もつくっているらしい。家畜も飼っているらしく、それは豚やにわとりのようなもので、城下町などでは食肉として出回っているらしい。


…らしいばっかりですまん。


森の民とは食生活からしてずいぶんちがう。族長が病気がちなのと、村のみんなが弱々しいのは食生活が関係あるのかもしれないな。ゆくゆくは改善できたらいいなと思う。


食後にこの世界の話をしつつ談笑した後、夜も更けたのでみんな同じ部屋で雑魚寝を提案されたが家族でもないのに、女の人と寝るのが気が引けたので、離れの食料庫のような場所、畳3帖ほどのログハウスを借りて寝る事にした。


この世界の夜は…暗闇ではない。月のようなものが天には2つあり、その輝きはブルーなのだ。コバルトブルーのような色なのだ。もしあの月のようなものからブルー波が出ていたら、わしは巨大なサルになっていたであろう。どちらかというと外見は亀○人だけどね。


今まで全然話しが進まなかったので、ちょっと説明を入れてみたのじゃ。大人の都合じゃ。


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夜も更け、やっと寝付いた頃、倉庫の扉がすこしづつギギギと音を立てて開いていく。青い月のひかりが真っ暗な倉庫の部屋を少しづつ照らしていく。わしは寝た振りをしつつも薄眼を開けて警戒をする。なんとそこにはコバルトブルーの月明かりに照らされたセイムさんがたたずんで…


というような展開はまったくなく、微塵もなく、ロマンスもなく、ハーレムもなくわしの妄想だったのじゃ。


夜明けを迎えた…。


やっぱり外見がジジイってのがだめなのかね。他の異世界物だったら、絶対にぱっとしない同級生もイケメンばりにブイブイいわせてハーレム展開になるところじゃのに…


ふーふーふーっいかんいかんつい興奮してしもうた。もち着けおれ!


するとどこからともなく「どんだけラノベ展開心待ちにしてんだよ~よ~」というツインテール少女ミチの声がエコーで聞こえた気がした。だぶん幻聴だろう。


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早くに目が覚めてしまった。時計なんぞ無いがまだ4時か5時ぐらいだろうか。扉の間からさわやかなオレンジ色の明かりが差し込んできた。


起き上がって扉に手をかけようとしたとたんに、それよりも早く扉が開け放たれた!不幸な事に、いきおいよく開かれた扉がバウンドして開け放った男の後頭部に直撃して、わしの目の前につっぷした。顔から落ちた、ベチャッと。


3秒の沈黙の後がばっと起き上がってまるで痛くありません、予定通りですといわんばかりの顔で…血だらけの顔で、


「仙人さま、ありがとうございました。昨日の高熱がうそのように1晩で下がりました。こんな1日で治る事などいままでなかったのに、仙人さまの薬のおかげでございます。」

族長のスブムだった。


「もう、いてもたってもいられなくなり、失礼ですが、寝込みを襲ってでも一言お礼をしなければと思い駆けつけました。」

…寝込みを襲おうとするなよ。おっさん。やっぱり薬を飲んだ事ないから効き目が早かったのだろうか?薬の効き目はこれからの課題だな。


「とにかく熱が下がってよかったですな。家族もひと安心じゃろう。」

よくみると後ろにものすんごく眠そうなセレブさんとセイムさんがぼーっと立ち尽くしていた。


あ~無理矢理起こされて、わしの事を聞き出されたんじゃろうな。


「目覚ましついでに、この辺りを散歩しませんかの?ついでに色々聞きたいこともありますし。」とわしがスブムを誘った。

「ええ、いいですとも。ぜひご一緒させてください」


※※※※※


朝方ということもあってすごく清々しい。森の中はひんやりというか少し肌寒いくらいだった。2人で森の中を歩きながら、わしはこの世界の事を色々と聞いてみた。


この世界というか森の民の話なんじゃが、四季という概念は無いようじゃ。年中同じ気候らしい。日本でいうと夏の直前という感じかな。1年、月という単位もないが、じゃあ歳は?というとだいたい300日でというアバウトな考えだった。毎日、日が出れば起きて、日が沈めば休むという生活を先祖代々してきたらしい。


人間らしい暮らしぶりに非常に好感がもてた。


スブムが族長というのも世襲性でしかたなく自分に番が回ってきたとの事。自分よりも、たくましく有能な民がいるのに…自分よりも、頭のいい賢い有能な民がいるのに…常に葛藤との戦いだと。自分では無理だという思いもあるが族長としてネル地域に住まう民をよりよく導かねばと。


そんないい話しを聞いてしばらくの沈黙。


スブムの息づかいがだんだん荒くなってきた。

「んふーっ、んふーっ」


なんだなんだ、目が血走っておるぞ。わし怖い…


スブムがわしの肩をガッと両手でガッシリと強く掴み、わしに向かって叫ぶ!

「わたじは、あなたがぼしい~~~~」


わしジジイだけどもよ。マニアックやね。

などと思う余裕はない…

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